翻訳家によるコラム「コラーゲンの人工角膜で視力改善(カナダ・オタワ大学)」

高橋翻訳事務所

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2010/08/30
コラーゲンの人工角膜で視力改善(カナダ・オタワ大学)

特急翻訳、ビジネス全般翻訳、技術全般翻訳、音楽翻訳担当の高橋です。

注目すべき記事が Yahoo のトップニュース( 8 月 27 日 8:43 時事通信)に出ていました。視力改善の技術といえば、現在広く行われるようになったレーシックや、手術を必要としないオルソケラトロジーなどがあり、このような技術がまだ一般的でなかったころから、論文の翻訳や海外の眼科医院との連絡など、数多くの翻訳を手掛けてきました。

このように日本でニュースが出ているとき、若干の時間差があり、元の英文ニュースでは既にかなり詳しい説明がされていることが多いです。 "Ottawa" "Cornea" "Artificial" という 3 つのキーワードを " " で囲んで検索すると、この 3 つを含む記事が検索されます。この方法は何かの言葉の定訳を確認するのに多用しています。

http://news.yahoo.com/s/ap/20100825/ap_on_he_me/us_med_new
_cornea
( AP Associated Press)

の記事が、 Restoring sight with new type of artificial cornea (新しいタイプの人工角膜で視力回復)の題名で、 8 月 25 日 4:49pm ET に発表されていますので1日強の時間差ということになります。

一部を訳してみましょう。

Scientists have created a new kind of artificial cornea, inserting a sliver of collagen into the eye that coaxes its own natural corneal cells to regrow and restore vision.

科学者たちは新しい種類の人工角膜を作り上げた。コラーゲンの小片を眼に挿入し、それが自分自身の角膜細胞を丸め込み、再成長し、視力を回復します。

ニュースの翻訳は、和訳または英訳された文章をすぐに使う必要があるため、そのニュースの背景も理解した上で、最初からその言語で書かれた文章のように表現するのが理想です。

最初にあえて直訳調に訳してみましたが、ニュース用には以下のような訳文が求められます。

コラーゲンの小片を角膜に挿入することで、自身の角膜細胞と一体化し、再成長することで視力を回復させるという、新しいタイプの人工角膜が開発された。

英文の後半には、どこの研究者がそのような技術を開発したかということが書かれているため、冒頭の「科学者たちは」は訳出不要で、その他の訳語も、日本語版として最も適切な「通りのよい言葉」に置き換えます。また、語順も日本文として最も自然な場所に移動させます。このような処理は、一度直訳をしてから調整していくものではなく、一瞬で再構築をしながら訳していきます。これは優れた通訳の場合と同様です。ただし、そのような高度な処理をした後でも、あえて訳出していない点や、逆に言葉を補った点についてご説明できるようにしています。

Yahoo の日本版の記事を見てみますと、「本物の角膜と同様にコラーゲンを主体とする人工角膜を生合成し」のように、「本物の角膜と同様に」が補ってあります。日本版ではわずか 6 行ほどの短いものとなり、元の英文からはかなり割愛された文章になっていますが、その短い文章の中にあえて「本物の角膜と同様に」を補ってあるのは、一般の読者を意識した非常に適切な処理だと思いました。


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