翻訳家によるコラム「契約書・政治経済・アート・スポーツコラム」

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2016/09/07
事前の通知や承諾なしに権利、義務の「譲渡」はできません

こんにちは。高橋翻訳事務所(http://goo.gl/25cZv)契約書・法律文書翻訳担当の佐々木と申します。今回は譲渡(assignment)、譲渡禁止(non-assignment)について取り上げていきます。

譲渡や譲渡禁止は、委託加工やライセンス契約、合弁契約で多く見られる項目ですが、当該契約の権利や義務を第三者に譲渡する場合は、事前に相手方へ通知し、承諾を得なければなりません。譲渡の英訳には「assign」と「transfer」の2つがありますが、assignは権利や義務など無形の(intangible)もの(知的財産権など)、transferは有形の(tangible)もの(有形財産)に使用されています。また、この2つ以外にも「dispose(処分)」や「lease(リース)」、「sell(売却)」といった単語が含まれる場合もあります。

Assignment
This Agreement or, any rights or obligations hereunder shall not be transferred or assigned by either party without the prior written consent of the other party.

譲渡
いずれの当事者も、本契約または本契約におけるいかなる権利や義務を相手方の書面による事前の承諾なく、譲渡してはならない。 (出典:日本商事仲裁協会)

この英文ではassignとtransferが併記されていますが、どちらも「譲渡」を意味するため、日本文では2つをまとめて「譲渡」とするケースがほとんどです。余談ですが、英文契約書の特徴として、同義語を反復する傾向があります。例えば、「terms and conditions(権利)」や「force and effect(効力)」、「null and void(無効)」など、契約書で頻繁に目にする言葉もその仲間です。

続いて、ライセンス契約の例文を見ていきましょう。

Assignment, Sublicense and Subcontracting
(1)
Neither party shall assign, transfer or otherwise dispose of this Agreement, or of any right or obligations hereunder without the prior written consent of the other party.

(2)
Licensee shall not sublicense any right granted by this Agreement to any third party without the prior written consent of Licensor, which consent shall not be unreasonably withheld; provided, however, that Licensee may manufacture any part of Products through its subcontractors.

譲渡、サブライセンスおよび下請
(1)
いずれの当事者も、相手方の書面による事前同意なくして、本契約や本契約に基づくいかなる権利や義務について、譲渡、移転その他の処分をしてはならないものとする。

(2)
ライセンシーは、ライセンサーの書面による事前同意(本同意は不合理に留保されないものとする)なくして、本契約により許諾されたいかなる権利も、第三者にサブライセンスしないものとする。ただし、ライセンシーは、自己の下請業者を通して許諾製品の部品を製造することができるものとする。 (出典:日本商事仲裁協会)

ライセンス契約は、特に当事者間の信頼関係(技術力や競争力など)を前提として成り立っているため、ライセンシーが契約の全部もしくは一部を第三者に譲渡してしまうことは契約の趣旨に反しています。また、ライセンシーが部品などの製造を下請業者に依頼する場合は、(2)の項目を必ず入れておかなければなりません。その際には、下請業者にも製造のノウハウ(know-how)が開示されるため、下請業者もライセンシーと同レベルの守秘義務が課されることになります。

最後に、合弁契約書の例文ですが、合弁会社(joint venture company)とは、自国資本と外国資本が共同出資して設立、運営する会社です。明治以降、日本経済は外国資本の受け入れに消極的な姿勢でしたが、1950年に外資法が制定されてからは段階的に自由化措置が取られ、現在では一部を除いて100%外国資本による企業設立が認められるようになりました。合弁会社は、この自由化が進む過程で数多く出現したという歴史があります。合弁会社は特定の企業や組織が共同で事業を行うことを目的として運営されているため、株式の譲渡を制限、もしくは禁止するのが一般的となっています。

Restrictions on Transfer of Shares
Expect as provided in Article ○ hereof, neither party hereto shall, without the prior written consent of the other party, assign, sell, transfer, pledge, mortgage or otherwise dispose of all or any part of its shares (including its right to subscribe to new shares) of the New Company to any other person, firm or corporations.

株式の譲渡制限
本契約第○条に規定される場合を除いて、本契約のいかなる当事者も、他の当事者の書面による事前の同意なくして、第三者に対してその所有する新会社の株式(新株の引受権を含む)の全部または一部を譲渡、売却、移転、質入れ、担保差入れまたはその他の処分を行わないものとする。 (出典:日本商事仲裁協会)

以上、契約書における譲渡、譲渡禁止の項目について見てきましたが、日本の民法(civil code)では、債権を第三者に譲渡することが認められており、その場合は債権者から債務者への通知、債務者から債権者への承諾、債務者から譲受人への承諾のいずれか1つが行われれば譲渡が可能になっています。以上の条件を理解していれば、「有料サイトの利用料について債権譲渡を受けたので、未納利用料金の回収を代行します」といった架空請求メールが届いた場合でも、譲受人から債務者への通知だけでは譲渡が認められないため、この請求は無効であると判断することができます。ですので、身に覚えのない請求の連絡が突然来ても、慌てず冷静に対処するように心掛けましょう。


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