翻訳家によるコラム「“common law”について」

高橋翻訳事務所

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2013/03/11
“common law”について

契約書翻訳、法律文書翻訳担当の岡田です。

過去に「コモン・ロー(common law)とエクイティ(equity)について」というタイトルで「コモン・ロー(common law)」についてお話しましたが、「コモン・ロー(common law)」ついて違った角度で再度お話しします。「コモン・ロー(common law)」は、「エクイティ(equity)」との相対的な関係から「コモン・ロー」と訳されるということは前回お話ししましたが、それでは以下の文章はどうでしょうか。

"Intellectual Property Rights" means all intellectual property rights arising under statutory or common law.”

「英米法事典」で「common law」を調べると次のように記載されています(抜粋です)。

1 コモン・ロー
Equity(エクイティ)と対比される用法。

2 判例法;不文法
Statute(制定法)あるいはstatutory law(制定法)またはwritten law(成文法)と対比される用法。この意味で用いられるときには、equity(エクイティ)、law merchant(商慣習法)、canon law(カノン法)など、1の意味でのcommon law以外の分野での判例も含まれる。

3 英米法
Civil law(大陸法)と対比される用法。判例法だけでなく制定法も含めた英米法の全体をさす。

4 世俗法
Ecclesiastical law(教会法)と対比される用法.

5 (教会法上の)一般法;普通法
ローマ教会全般に普遍的に行われる法、jus commune(一般法)。各地域の教会の特別な慣習と区別する意味で用いられる。

この説明から、上記の文章の「common law」は、1の「コモン・ロー」ではなく、2の「判例法;不文法」の意味で用いられていることがわかります。従って、翻訳は以下のようになります。

"Intellectual Property Rights" means all intellectual property rights arising under statutory or common law.”

「知的所有権」は、制定法または判例法に基づき生じるすべての知的所有権を意味する。

ここで重要なことは、特に英文契約書では「common law」は、ほとんどの場合に「コモン・ロー」の意味で用いられ、そのように翻訳されますが、常にそうであるとは限らないので、自動的に訳語を選択することなく文脈に応じて訳語を使い分けなければならないということです。このことは「common law」のような専門的な言葉だけでなく、「agree(合意する)」、「consent(同意する)」、「approve(承認する)」、「provide(提供する)」、「develop(開発する)」などのような一般的な言葉についても同じことが言えます。これらの言葉について括弧内の訳語を自動的に用いているのではないかと思われる訳例を見かけますが、文脈に応じて訳語を考えなければなりません。


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