翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2012/04/23
メーカーによって効き方が違ってくることがある

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

「同一成分、同一含量の薬でも、メーカーが違えば同じ効果を示すとは限らない」

これは1972年に英国の医学雑誌「ランセット」(medical journal The Lancet)に載った記事です。

この記事はフィンランドの大学からの報告で、ある会社の強心剤ジゴキシン錠を飲んていた患者達が他の製薬会社の製品に変えたところ、80%の患者の血中濃度が上昇し、そのうちの何人かが中毒症状を起こしたというものです。

この記事に関する議論が行われている頃、英国にある製薬会社が自社のジゴキシン錠の製造工程を変更し、驚くべき事実を発見していました。新しい錠剤の効力が2倍になっていたのです。

ジゴキシンは治療に使う量と、中毒する量の差が小さいため、新しい錠剤をそのまま使えば、中毒者が続出します。会社はあわてて英国内の全医師に警告を発し、製品を回収しました。

こうした例はまだまだあります。カナダでは錠剤の大きさを変えただけなのに、血液の凝固を防止する薬の効き目が悪くなり、改良して再発売すると今度は効き過ぎると苦情が殺到したのです。また、似たようなことは糖尿病の薬でも副腎皮質ホルモン剤でも起きています。ではなぜこのようなことが起きるのでしょうか。

普通、飲み薬に含まれている有効成分はわずかな量ですが、この有効成分の結晶の形が違うと、体内に吸収される量が違ってくることがあります。また、飲み薬は有効成分のほかに「かさ」を多くする物質や、錠剤の形をつくる物質など、効果と関係ないものも含んでいます。これらの物質の種類によっては、有効成分の吸収率が違ってくるわけです。

同じ成分を同じ量だけ含有する薬なら、どのメーカーのつくったものでも効き目は同じといいきれないのです。

最近、医療費の高騰にともないジェネリックと呼ばれる後発品が脚光を浴びています。欧米ではジェネリック製品の使用が推奨されているし、日本でも医療報酬に定額制が導入されてから、後発品を使用する医療機関が増えています。しかし、後発品が先発品とまったく同じつくり方をしているとは限らないので、効き目についての不安は残ることになります。


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