翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

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2012/03/19
急性胃炎と慢性胃炎の違い

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

急性胃炎(acute gastritis)の原因として最も多いのは暴飲暴食です。アルコールや強い香辛料を大量に摂取すると、胃の粘膜に炎症が起こります。また、解熱鎮痛剤や抗生物質などの薬、精神的および肉体的ストレス、病原菌の感染、食べ物に対するアレルギーなども原因になります。原因を取り除いて適切な食事療法を行えば数日で軽快します。

慢性胃炎(chronic gastritis)の原因はもう少し複雑です。そもそも慢性胃炎は分類すら定まっていません。慢性胃炎では多くの外因と内因が複雑にからみ合っている上、年齢などの要素も関与しているからです。

慢性胃炎のキーワードの一つは、慢性扁桃炎や慢性膀胱炎と同様に「炎症の繰り返し」です。胃の中には食べ物を溶かす胃酸が分泌されていますが、胃袋が溶けてしまわないのは粘液を出して保護しているからです。急性胃炎を起こす因子の多くはこの粘液の分泌を弱めるものですが、こうした因子が繰り返し作用すると、炎症が治りきらない間にまた炎症を起こし、次第に元に戻らなくなっていくと考えられます。慢性炎症を考える上では、この「治りきらない」ということも重要です。慢性炎症では傷害と修復が同時に見られるのが一般的だからです。慢性胃炎では結果として、胃の上皮が腸の上皮に変わっていく腸上皮化生(intestinal metaplasia)とともに、粘膜の萎縮に至ります。

慢性胃炎のキーワードのもう一つはピロリ菌です。ピロリ菌(Helicobacter pylori)はサイトトキシンという毒素を産生して、胃の粘膜を直接傷害します。また、ピロリ菌はウレアーゼ(urease)という酵素を産生して、胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解しますが、このアンモニアがフリーラジカルの産生と結びついて胃の粘膜を傷害します。こうして粘膜が傷害され、粘液による防御システムが破壊されてしまうと考えられています。

ピロリ菌が強酸性の胃の中でも生息できるのは、アンモニアによって局所的に胃酸を中和して、自らの生息環境を保持しているからと考えられています。ピロリ菌のたくさんいる胃の粘膜上皮を顕微鏡で見ると、慢性炎症の指標であるリンパ球や形質球に加えて、好中球も浸潤しています。これは慢性炎症に急性炎症の所見が加わっている状態で慢性活動性胃炎と呼ばれます。胃酸の中でピロリ菌が生き続けて、持続的に傷害を及ぼしているのです。


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