生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
ダウン症候群(Down syndrome)は、21番目の染色体が3本ある(21トリソミー)ために発症します。ヒトの染色体22組と性染色体1組は、半分に分かれて配偶子に入ります。このとき、21番染色体がうまく半分に分かれないで入ってしまうと、21番染色体が2本ある配偶子ができます。これが相手の正常な配偶子(gamete)と組み合わさることで、21番の染色体が3本ある受精卵となります。ダウン症の約95%はこのタイプです。
残りには二つのタイプがあります。一つは、受精卵が細胞分裂するときに、染色体の不分離が起きるタイプです。体の中に21トリソミーのある細胞と無い細胞が混在することになります。すべての細胞が21トリソミーである標準型と比べて、心臓の奇形などの発症率は低いようです。もう一つは、21番染色体が他の染色体に転座してしまうタイプです。転座型の半数は、片方の親が転座染色体の保有者である場合といわれています。
こうして見ると、ダウン症の子のほとんどは、正常の染色体をもつ両親から生まれていることがわかります。ダウン症の子をもつ親が「自分がおかしな遺伝子を持っていたから・・・」と考えるのは間違いなのです。ダウン症は染色体異常ですが、親から子に伝えられる遺伝性の疾患ではありません。
身体を作る染色体に異常があれば、生きて生まれてくるのが難しいことが想像できます。21番染色体はいちばん短い染色体であり、その中に含まれる遺伝子の数が少ないので、生まれることができると考えられています。言い換えれば、ほかの染色体のトリソミーは育たずに死んでしまうけれど、21番目の染色体のトリソミーだけは奇跡的に生きて生まれてくるのです。
偶然に21番染色体が2本ある配偶子ができ、それが受精して生まれてくる確率は、ほぼ一定と考えられています。従って、ダウン症の出生頻度は民族、社会、経済クラス等で差はありません。最近の日本の統計では、出生頻度は焼く1000人に1人と報告されています。ただし、高齢出産(late childbearing)の場合、ダウン症の発生率は高くなります。これは母親の卵子形成過程で起こる染色体不分離が、加齢によって増加するためと考えられています。過剰な染色体は、父親由来のこともあります。母親由来と父親由来の日は、4:1といわれています。
ダウン症はつりあがった小さい目の顔貌が有名ですが、さまざまな内臓奇形を合併することが多いのも特徴です。中でも心臓の奇形は、種類によっては生後なるべく早く治療する必要があります。ほかにも、低身長、肥満、筋力の弱さ、頚椎の不安定性、眼科的問題(先天性白内障、眼振、斜視(cross-eye)、屈折異常)、難聴(hearing loss)などが知られています。また、一般に精神発達遅延が認められますが、その程度はさまざまで、大学を卒業した人や、音楽や絵画で有名になっている人もいます。愛嬌のある人懐っこい性格は、ダウン症候群の子供たちの特徴といわれています。
同じ21番染色体のトリソミーなのに、合併する奇形や症状がさまざまというのは不思議ですね。遺伝子や染色体の異常は、まだまだ解明が始まったばかりといえるでしょう。
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