翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

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2012/03/06
ネズミの尿の臭いをもたらすフェニルケトン尿症

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

フェニルケトン(phenyl ketone)という物質が大量に尿に混じると、ネズミの尿のような臭いが発生することになるます。これがフェニルケトン尿症(phenyl ketonuria)の特徴です。フェニルケトンの元になるのはフェニルアラニン(phenylalanine)で、これは必須アミノ酸(essential amino acid)の一つです。そのフェニルアラニンが尿にたくさん排泄されるというのはどういうことなのでしょうか。

摂取したフェニルアラニンの大部分は、身体の中でチロシンというアミノ酸に変えられて代謝されます。フェニルアラニンをチロシンに変換するためには、フェニルアラニン水酸化酵素という酵素が必要ですが、この酵素を作るための遺伝子に異常が生じるのがフェニルケトン尿症なのです。摂取したフェニルアラニンが代謝されずに、体内に過剰に蓄積し、尿中にまでもれ出てしまうわけです。そうすると、フェニルアラニンを減らすためには、摂取を制限すればよいことになりますね。

フェニルケトンの赤ちゃんは、生まれた時は正常ですがミルクを飲み始めると、その中に含まれるフェニルアラニンを代謝できないため、フェニルアラニンが体内に蓄積していきます。これにより脳に障害が起こり、知能傷害、脳波異常(electroencephalogram abnormality)、けいれんが見られるようになります。このような赤ちゃんにはフェニルアラニンの量を減らしたミルクを与え、成長してからもフェニルアラニンの摂取を制限します。そうすれば症状を出さずに過ごすことができます。

現在の日本では新生児のマス・スクリーニング(newborn mass screening)として、血液中のフェニルアラニンの量を調べて、発症前に問題を発見するよう対策が取られています。ただし、フェニルアラニン制限食は一生続ける必要があり、中止すると知能が低下し、神経障害や精神医学上の異常が起こります。そのため、遺伝子の異常を直接修復するような治療法が期待されます。


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