生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
前立腺癌は血液中のPSA(前立腺特異抗原:Prostate Specific Antigen)を計測することによって、非常に早期のものも見つけることができるようになりました。乳がんもマンモグラフィー(mammography)の発達によって、数mm以下の微小なものでも早期に見つけられる時代です。
しかし、このようにして見つけられるガンの中には、進行が遅く、潜在ガンとして一生を終えるようなものも含まれています。結果的に必要がないものに治療を行えば、切除しなくてもよいものを切除したり、放射線療法(radiation therapy)や化学療法では副作用が出たりという障害が生じます。そうなると、「検診(health check)は高いお金をかけて、治療する必要のないガンを見つけているだけではないか」という議論も起こるでしょう。欧米では事実、PSAによる前立腺癌の検診の進め方について、国により、また学会により見解が異なっています。
ガンが見つかっても必要性が低ければ「治療しない」という選択肢もあります。しかし、「自分のからだにはガンがある」という不安が残りますし、通常は一生涯、定期的に検査を受け続けることになります。あるいは、せっかく早期に見つけたのに、結果的に手遅れになってしまったというケースも出てくるはずです。
患者の年齢によっては、治療を行うかどうかは、ほかの病気で死ぬ確率とガンで死ぬ確率のどちらが高いかを比較して考える必要があります。生活の質(QOL:Quality of Life)をどう考えるか、ということも問題になります。
微小なガンを治療するかどうか。残念ながら医学には不確実性がつきものであり、確率の問題であって、絶対といえる選択はありません。例えていうならば、100人の患者に手術を行ったことによって、結果として30人の患者の命が助かり、69人の患者には必要のなかった手術であり、1人の患者が手術で亡くなったという調子なのです。まずは、見つかった早期ガンのうち、治療すべきものとそうでないものを見分ける方法を探すことになりますが、見つけたとしてもそれはまた確率の話であって、「○○であれば、△△年の間に進行ガンになる確率が□□%」というものとなります。
なお、そのような確率を求めるためには多くのデータが必要ですが、データになるのは現在病んでいる患者さんたちであり、その患者さんたちがデータの結果による恩恵を受けることはほとんどありません。このことは医学や医療が常に抱える問題といえます。 |