生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
膝のすぐ下をゴム製のハンマーで叩くという医学的検査があるのをご存知でしょうか。ハンマーがなくてもやってみることができます。机などに座り脚をブラブラさせた状態で、手で膝の下を軽く叩いてみてください。足がピョコンと上がるはずです。膝のすぐ下には腱(tendon)と呼ばれる組織があり、ここをハンマーで叩くと一種のセンサーが反応して、膝の筋肉を収縮させる信号が発するようになっています。
その昔、栄養状態がまだ悪かった頃、脚気(beriberi)という病気にかかる人がたくさんいました。ビタミンB1が不足して起こる病気で、むくみや神経麻酔などの症状が出ます。その検査として行われていたのがこれであり、正しくは膝蓋腱(しつがいけん)反射と言います。
日本においては、ちょうど精製した白米を常食するようになった頃、野菜などの副食を摂らずにご飯だけを食べてこの病気になる人が多発し、特に軍隊で大きな問題となりました。当初は原因がわからず、細菌などの感染症ではないかとも考えられたそうです。その後、ビタミン不足が原因であることがわかり、麦などを食べることで予防できることがわかりました。当時、医師であり軍人でもあった文豪の森鴎外が、細菌説を強く主張して兵隊に麦を食べさせずに、ますます病人を増やしてしまったという逸話も残っています。
食生活が豊かになった現在、脚気にかかる人はほとんどいなくなりました。それにもかかわらず、膝蓋腱反射は大変重要な検査法となっていますが、その理由は、この検査が脳神経や手足の神経障害を発見する上で役立つことにあります。つまり、医学界では単純なハンマーも重要な医療機器というわけです。
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