生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
海洋生物を対象とするマリンバイオテクノロジー(marine-biotechnology)が注目を集めています。
日本人は長年にわたり魚を動物タンパク質の重要な供給源としてきました。魚介類(seafood)の総生産量に占める養殖の割合は年々急速に増していますが、それでも多くを天然資源に頼っているのが現状です。乱獲(indiscriminate fishing)、海洋汚染の進展、気候の変動などで漁獲量は減少の一途をたどっています。このまま海洋資源を枯渇させるわけにはいきません。
資源を豊かにするために考えられるアプローチの1つが「雌性発生(gynogenesis)」です。ニシン、サケ、カレイ、シシャモなど、多くの魚はメスのほうがオスよりも成長が早く、しかも卵があるということで商品価値が高くなっています。もし、人工授精によって生まれてくる魚をすべてメスにできれば生産量はぐんと向上します。この技術が雌性発生です。
メスばかりにしたら、人工授精に必要な精子はどうするのかと思ってしまいますが、例えばサケの場合では、メス30尾分の卵に対してオス1尾分の精子で十分なのです。ですから、メスとオスの割合を30対1になるようにコントロールしておいて、孵化させた稚魚を放流するといったことが考えられます。また、バイオテクノロジーを使って魚の成長ホルモンを大量に生産できるようになったのを受けて、魚を短期間に成長させる研究が進められています。
こうしたバイオテクノロジーの集大成として考えられるのが「海洋牧場(marine farm)」です。海洋牧場とは、特定の海洋領域に音響やレーザー光線などで魚を封じ込め、そこで魚を養殖するというものです。餌になるプランクトンや藻類が太陽光を集めるシステムや、深海や海底へ太陽光を送るシステム、あるいは栄養塩を海底からくみ上げるシステムを開発して増殖させます。魚にもすみよい環境を与え、その結果得られる「海の幸」を私たちの貴重な食料源にするというわけです。
海洋牧場はまだ夢物語の領域から出ていませんが、自然との共生を図る意味からも大きな期待が寄せられます。
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