生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
昔から、「体の中を切らずにのぞいてみたい」と考えていた科学者や技術者はたくさんいましたが、話はそう簡単ではありません。たとえメスで切り開かなくても、痛い方法や苦しい検査では困ります。
当時最先端の医療機器として誕生した内視鏡(endoscope)は、硬い筒でできていて、望遠鏡を細長くしたようなものでした。これで胃の中をのぞいてみようと考えたのです。最初に実験台になったのは、なんと曲芸師でした。昔から西洋には、長い剣を口から飲み込んでみせる曲芸師がいたからです。その人にとっては剣を飲むより楽だったでしょうが、普通の人には考えただけでもゾッとする話です。それにもかかわらず、医学界ではこのような器具が気管支や咽の奥を調べるために1970年代まで使われていました。現在のものと比較するとすごく野蛮なものに見えてしまいます。
その後、細くて柔らかい内視鏡を作るための涙ぐましい努力が始まりました。細いチューブの先にレンズとフィルムだけを取り付け、ワイヤで遠隔操作して胃の内部を撮影するという装置も考え出されました。これこそ、まさに胃カメラ(gastrocamera)と言うにふさわしいものだったかもしれません。
技術の突破口となったのは光ファイバ(optical fiber)の登場です。石英ガラス(quartz glass)あるいはプラスチックを限りなく細かくし、その外側を屈折率(refractive index)の異なる材料で包むと、光が途中で漏れることなく遠くまで伝わるようになります。これが光ファイバですが、1本で画像の1点しか伝えることができないために、2万本くらいを束ねて使う必要があります。
光ファイバを利用した内視鏡はファイバスコープと呼ばれ、つい最近まで大活躍していました。ところが解像度を上げるためにファイバの本数を増やそうとすると、1本ずつ細かくしなければならず、そのためにうまく光が伝わらなくなり、むしろ解像度が低下してしまうというジレンマがありました。
代わって登場したのがCCD(charge coupled device:撮像素子)方式の内視鏡です。CCDは既にデジカメやスキャナでも使われている通り、現在では画像をデジタルデータ化する部品として欠かすことのできないものとなっています。
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