翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/12/06
バイオレメディエーション

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

バイオレメディエーション(bioremediation)とは、環境に負荷を与える物質を取り除くために微生物を使う方法です。

例えば、経済産業省が行った土壌汚染等修復プロジェクトというものがあります。ここではある工場のタンクが破損し、発ガン性の疑いのあるトリクロロエチレン(trichloroethylene)によって汚染されたと仮定します。トリクロロエチレンは半導体の洗浄に使われますが、飲み水に混ざれば健康被害を引き起こします。そこでまず、モニタ井戸を何本か掘って汚染地域を確認し、汚染地域を確認したらモニタ井戸の中から何本かを選び、メタン資化性菌(methanotroph)というトリクロロエチレンを分解する微生物を加圧して土中に送り込みます。同時に微生物が活性化するように酸素や栄養塩類も送り込みます。役目を終えた微生物は減圧したモニタ井戸から吸い上げて、再度活性化させた後に土中に送り込むことになります。

この方法とは別に、土中のトリクロロエチレンを吸い出し、メタン資化性菌を詰めたバイオリアクターに通して分解する方法もあります。

これ以外にも、微生物を使ったバイオレメディエーションはいろいろなところで応用されています。

例えば、タンカーの挫傷事故などによる重油(heavy oil)の流出は大きな環境破壊をもたらします。微生物の中には原油(crude oil)や重油を分解できるものがいます。このような微生物を、活性化に必要な栄養素と一緒に海洋に撒くことによって原油を分解し、環境を回復することも可能です。

今後のバイオレメディエーションのターゲットはダイオキシンなどの環境ホルモンです。そのためには、ターゲットとなる環境ホルモン(endocrine disrupter)を効率的に分解する新しい微生物を発見しなければなりません。また、発見した微生物を遺伝子組み換えによって効率的に分解できるように改良を加える必要が生じるかもしれません。

微生物を使うバイオレメディエーションにはマイナス面もあればプラス面もあります。マイナス面としては、生物反応を利用するので時間がかかり、さらに進行状況をコントロールすることが難しい点があげられます。最大のプラス面は、自然界に存在する微生物を使うために、環境を破壊しないということです。環境に優しいバイオレメディエーションの重要性は高まるばかりです。


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