翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/11/28
転写反応について

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

mRNA合成(転写:transcription)は基本的にはDNA合成とよく似ています。DNA鋳型に対して、GとC、AとUというように塩基が鋳型との間で対を作ってヌクレオチド(nucleotide)をつなげていくという過程は同じです。また、合成の方向が5'側から3'側へ向かうことや、それが鋳型DNAと逆向きであることも、DNA合成の場合と同じです。他方、DNA合成の材料はデオキシリヌクレオチド(deoxynucleotide)ですが、RNA合成の材料はリボヌクレオチド(ribonucleotide)であるのは当然の違いです。また、DNA合成にはプライマー(primer)が必要ですが、RNA合成には不要です。合成されたRNAの一部はリボソームの構成部分となり、これがいわゆる翻訳会社の役割を果たしていきます。

RNA合成を進める酵素(enzyme)はRNAポリメラーゼです。核酸(nucleic acid)の単位であるヌクレオチドをつないで、高分子のRNAを作る反応をします。ちなみに、原核生物(prokaryote)では主なRNAポリメラーゼは1種類ですが、真核生物(eukaryote)では性質の違う少なくとも3種類のRNAポリメラーゼがあって、仕事を分業しています。リボソームの翻訳業務といい、細胞内にはさまざまな仕事があるものです。また、RNAポリメラーゼは、原核生物では4つのタンパク質からなる複合体ですが、真核生物では12〜15個ものタンパク質からなるおおきな複合体です。

DNA合成では、親のDNA鎖を忠実に端から端まで、すべての塩基配列を複製し、親細胞から娘細胞へすべてのDNA領域が忠実に受け渡されますが、RNA合成では、DNAの端から端まで行われることはなく、遺伝子部分だけが転写されます。また、DNA合成のときは2本のDNA鎖とも鋳型になりましたが、RNA合成の場合は、鋳型として使われるDNAは2本のうちの1本だけであるのが普通です。

DNAの2本鎖のうち、RNA合成の鋳型になるほうの鎖を鋳型鎖(template strand)といい、鋳型にならない方の鎖をセンス鎖(sense strand)といいます。センス鎖のDNA配列にあるTをUに換えると、そのままmRNAの塩基配列になります。たとえば、DNAセンス鎖上のATGという塩基配列は、mRNA上ではAUGに対応するわけです。リボソーム翻訳会社がmRNAを5'側から読んでいくと、最初のAUGを翻訳開始の暗号として認識するため、それより前はアミノ酸配列に対応しない非翻訳領域であり、メチオニン(methionine)の暗号から後ろはコドンが並んでいる翻訳領域というわけです。DNAの2本鎖のうち、どちらがセンス鎖であるかは遺伝子によって異なり、DNAの全長にわたって同一であるわけではありません。


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