生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
高齢化社会(aging society)となった日本では、私たちの仕事を代替してくれる介護ロボットなどのシステムが必要とされています。
介護ロボットとコミュニケーションを交わすためには、私たちの話している内容をロボットに理解してもらわなければなりません。また、個人差のある好みの問題や性格(personality)をわからなければ本当の介護はできないため、人の脳のように思考できる人工脳を現実のものにする必要があります。現在、人工脳へのさまざまなアプローチ方法が考えだされていますが、その一つはバイオチップです。
生体では、DNA上に書かれた設計図に従ってタンパク分子が作られ(厳密には、細胞内の翻訳会社と呼ばれるリボソームによるタンパク質合成)、その分子が自然にいくつか集まって一つの機能集団を作り、細胞を作り上げ、その細胞が私たちの体を作り上げています。こうした生体分子を分子デバイスにしようとする考えがバイオチップ(biochip)です。
もし、この方法でデバイスを作ることができれば100オングストローム(10万分の1ミリメートル)以下という極めて小さいデバイスができると考えられています。シリコン(silicon)を材料とする現在の半導体デバイス(semiconductor device)の集積化(integration)はいずれ限界になりますが、生体分子デバイス(biomolecular device)ならこの限界を打ち破ることができます。
バイオチップの概念は今から20年以上前に示されました。1976年にはアメリカのマッカーレーヤらが、生体分子を用いた「モルトン」という素子を提案しています。これはバイオチップの組み立て型のモデルであり、実際の分子デバイスの考え方ではありませんが、バイオテクノロジー(biotechnology)とエレクトロニクス(electronics)の両分野に大きなインパクトを与えています。
残念ながら、実際にどのようなものができるのかはわかっていませんが、生体分子がもつ自然にさまざまな構造体を作る機能、それらが集まって機能する自己組織化(self-organization)機能、自己修飾(self-modification)機能を使って、自ら使えば使うほど発展するようなバイオチップが完成すれば、それらを高度に集積化することで、脳のように推論(reasoning)や学習、連想(association)などができるバイオコンピュータ(biocomputer)を作れる可能性があります。バイオチップにはそうした未知の可能性が秘められています。
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