翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/11/07
mRNA分解の調節

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

どんなものでもそうですが、mRNAも使い終わったら分解されなければなりません。原核生物(prokaryote)の場合、mRNAは翻訳に使われる端から分解されるので、mRNAの寿命は数分程度が一般的となります。真核生物(eukaryote)の場合は、mRNAはやがて分解されるとはいえ、寿命の短いmRNAもあれば、非常に長いmRNAもあります。mRNAの種類によって、その翻訳期間が異なるというわけです。

真核生物の場合、mRNAの分解は通常、3'側からポリA(poly A)が分解されて次第に短くなる反応と、5'側のキャップ構造が外れる反応で始まります。それに影響するいくつもの要因があります。タンパク質合成(いわば翻訳会社の業務)進行中は、キャップ結合タンパク質(cap binding protein)とポリA部分が会合していて、mRNAは環状になり、ここに翻訳会社であるリボソームが付いて翻訳が進んでいきます。これだと、5'側も3'側も分解が始まりません。mRNAの寿命にはいろいろな因子が関わりますが、たとえば、寿命の短いmRNAの3'非翻訳領域(non-coding region)には不安定化シグナルという塩基配列があって、それが脱キャップを早く進行させます。逆に、寿命の長いmRNAには安定化シグナルがあって、脱キャップが遅くなって寿命が長くなる例があります。また、翻訳中にリボソーム(ribosome)進行の異常停止が起きると、脱キャップが起きてmRNAは分解されます。

特定のmRNAには特定のしくみがあり、たとえば、鉄(ferrum)の細胞内への取り込みに関わるTfRタンパク質のmRNAの3'非翻訳領域には、IRPという塩基配列があります。鉄の細胞内濃度が低いときは、そこへIRPタンパク質が結合することでmRNAを安定化します。そして、TfRタンパク質を次々に翻訳して、細部内へ鉄を大量に輸送するわけです。鉄が十分になれば、IRPが外れてmRNAが分解されます。生き物というものは、体を維持するために、実にいろいろな工夫をしていることがわかります。


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