生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
CaMK?(カルシウムカルボジュリン依存性タンパク質リン酸化酵素?[カムケーツー]:Ca2+/calmodulin dependent kinase ?)は、脳の記憶や学習のメカニズムに関わっていると考えられています。CaMK?の働きの一つとして、シナプス(synapse)において神経伝達物質(neurotransmitter)の受け手となる受容体(receptor)の挙動を調節する、ということが挙げられます。この働きにより、神経細胞間の情報の伝達効率も大きく変動します。伝達効率が長期にわたって変化することは、脳の記憶や学習のメカニズムの基礎であると考えられています。
CaMK?は、リン酸化という化学反応を通して、細胞の中で働きが活性化している状態と不活性化している状態の2つの状態をとることが知られています。2005年に開発されたCamuiαは、リン酸化状態の変化から、CaMK?の活性状態の変化を蛍光としてとらえることができます。
Camuiαとは、CaMK?の両端に黄色の蛍光タンパク質(YFP:yellow fluorescent protein)とシアン色の蛍光タンパク質(CFP)をそれぞれ結合したものです。CaMK?が活性化されていない状態では、両者が近くに位置できるので、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:fluorescence resonance energy transfer)が起こりやすく、YFPの黄色の蛍光が出やすくなります。しかし、CaMK?がリン酸化を受けると、Camuiαの構造が大きく変化し、YFPとCFPとが離れてしまいます。その結果、FRETが起こりにくくなり、今度はCFPのシアン色の蛍光が出やすくなるというわけです。つまり、Camuiαの蛍光色を調べれば、CaMK?の活性化状態を調べることができるのです。
CaMK?は記憶や学習だけでなく、統合失調症などの精神疾患(schizophrenia)にも関連があることが報告されています。CaMK?の活性状態を一目で判別できるCamuiαは、そうした疾患の成り立ちや治療法の研究にも、貢献できるかもしれません。
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