翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/11/01
リボスイッチ

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

mRNAの低分子の化合物が結合することで、翻訳系(いわば翻訳会社)の働きを阻害する機構があることがわかってきました。mRNAにアミノ酸(amino acid)やビタミン(vitamin)類、ヌクレオチドなどの低分子化合物(small molecule compound)が結合すると、mRNAの転写が早期に終結したり、スプライシングが変更されてmRNAの完成が妨げられたり、翻訳会社の働きが阻害されたりします。この現象を「転写や翻訳を切り替えるスイッチ」という意味でリボスイッチと言います。

mRNAには特定の低分子化合物を結合するために、それなりの二次構造が用意されています。アカパンカビ(neurospora crassa)のチアニン代謝酵素であるNMTIのmRNAに、チアミンピロリン酸が結合すると、正しいスプライシング(splicing)が起きなくなるために酵素が合成できず、したがってチアミンが合成できなくなります。チアミンが十分にあるときは、チアミン合成酵素を翻訳会社が提供しなくてもよいということです。チアミンピロリン酸が不足すると、正しいスプライシングが起きて、酵素が翻訳されます。本当にさまざまな工夫を試みて、使えるものは使っているのが生き物であるということがよくわかります。


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