翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/10/12
GFPのpHセンサー

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

GFP(緑色蛍光タンパク質:green fluorescent protein)は酸性のpH環境を嫌い、pH5.5以下では急速に蛍光を失ってしまいます。しかし、これを逆手にとって、pHの変化を感知するセンサーとして、GFPを使うことができます。

神経細胞どうしが情報をやりとりする場所のことを、シナプス(synapse)といいます。実は細胞の中で、特にpH環境が変わりやすい部位の一つが、シナプス周辺部です。シナプスでは、細胞のシナプス小胞(synaptic vesicle)という袋の中に蓄えられている神経伝達物質(neurotransmitter)を細胞の外に出すことによって、隣の細胞に情報を伝えています。神経細胞が活動すると、シナプス小胞は細胞の末端まで輸送され、中に入っている神経伝達物質が放出されます。

シナプス小胞の中は、普段pHが5.6の酸性状態に保たれています。ところが、細胞の外側のpHはおよそ6.4なので、シナプス小胞の開口によって神経伝達物質が放出されるとき、小胞の中では大きくpHが変化することになります。

つまり、シナプス小胞の内側にGFPを結合させておけば、シナプス小胞の開口に伴って、今まで酸性環境で光ることができなかったGFPが、蛍光を発することができるようになるわけです。これによって、GFPの光った時間から、神経伝達物質がシナプスへと放出されるタイミングを計測することができます。

GFPをシナプス小胞膜上に結合させるためには、バンプ(vamp)という小胞膜上に結合して働いているタンパク質が利用されました。このタンパク質に、pH感受性をより高めた改良GFPを連結し、pHセンサーが作られました。pH環境を検知して、蛍光のスイッチを切り替える蛍光タンパク質です。これをシナプスフルオリン(synapto-pHluorin)と言います。

しかし、このまま光り続けてしまったら、次の神経伝達物質放出の瞬間をとらえることができません。うまいことに、神経伝達物質が放出された後は、シナプス小胞は細胞内に取り込まれて回収されます。回収された小胞内は再び酸性に戻るため、放出を繰り返し観察することができるというわけです。


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