翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/09/26
再生医療

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

再生医療(tissue engineering)とは、その名のとおり、病気で切除した器官(organ)や組織(tissue)を元通りにする医療のことです。とはいっても、従来の臓器移植のように生体や遺体から臓器を採取してくっ付けるわけではありません。あくまで自身の再生力を利用して、元の状態に戻すわけです。そのため、今までの臓器移植からなるべく離れるための医療とも言えます。

再生医療で再生されると考えられている器官は、皮膚(skin)、血管(blood vessel)、筋肉(muscle)、骨(bone)、関節(joint)、気管(trachea)、食道(gullet)、鼻(nose)、耳(ear)、心臓弁(heart valve)などなど、その数は30を越します。

ヒトをはじめ動物の身体は、小さな傷口などを除けば、通常再生することは不可能です。ではなぜそれでも再生医療が可能なのでしょうか。その答えはタンパク質(protein)素材のコラーゲン(collagen)のほか、ポリ乳酸(polylactic acid)やポリグリコール酸(polyglycolic acid)といった高分子化合物(polymer)にあります。

高分子化合物とは基本単位が1万以上結合した巨大分子のことを言います。そのうちポリ乳酸やポリグリコール酸など一部の素材は生体内に埋め込むと、次第に分解吸収される特徴があります。そこで再生医療では、高分子化合物から器官のひな形を作ることから始めるわけです。

器官のひな形を目標地点に置くと、周囲の細胞はその高分子化合物に侵入し、そこに定着して増殖し始めます。すると、そのうちにひな形は本当の器官になっていき、同時に高分子でできたひな形部分は生体内に解けて最終的には消えてしまいます。そして、ある時点まで来れば、器官は完全に自身の細胞によって元通りになるというわけです。まさに再生能力を存分にまで活用した技術と言えます。


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