翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/07/01
翻訳開始に関わる調節

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

完成したmRNAが細胞質にあっても、すぐに翻訳に使われるとは限りません。翻訳の調節には実にたくさんの例があります。

たとえば、ウィルスに感染すると、細胞はインターフェロンというタンパク質を翻訳します。インターフェロンには様々な働きがありますが、その一つとして、翻訳の開始因子であるeLF2をリン酸化して働けないようにして、翻訳会社の作業を阻害します。また、赤血球の元になる細胞はヘモグロビンを翻訳しますが、鉄を結合したヘムが不足すると、同細胞は同様に同様にeLF2をリン酸化して、グロビンタンパク質の翻訳を抑制します。ヘムが十分にあれば、グロビンをたくさん作って、両者が結合したヘモグロビンになる。

同様の例は他にもあります。体内には鉄を結合して貯蔵しているフェリチンというタンパク質があります。フェリチンのmRNAのキャップ構造のすぐ下流には、IREと呼ばれる特殊な塩基配列があって、鉄が体内に十分あるときにはIRPというタンパク質がそこに結合することで、開始因子の結合が妨げられ、従ってリボソームが結合できず、フェリチンが翻訳できない。鉄が不足すると、IRPタンパク質が外れてフェリチン翻訳が進み、鉄を体内に保持しようとします。

翻訳の開始因子であるelF4Eは、普通は4E結合タンパク質(4EBP)と結合していて働きませんが、必要に応じて結合タンパク質がリン酸化されて外れ、elF4EにelF4Gが結合した後、elF4Eがリン酸化され…といった一連の反応が起きて、やがてmRNAと結合する反応が進みます。さまざまな代謝変化や、あるいはウィルス感染が、この過程でできるリン酸化を抑制して、翻訳会社の作業を抑制することがあります。


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