翻訳家によるコラム「分子生物学・バイオ技術・環境コラム」

高橋翻訳事務所

分子生物学・バイオ技術・環境コラム

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2011/05/16
転写と翻訳の協調

生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。

原核生物では、mRNA合成の進行中に翻訳が始まります。1本のmRNA分子が完成する前に、次々にmRNA合成がスタートし、そのmRNAを使った翻訳が進行する。場合によってはmRNAの3'端ではまだmRNA合成が進行しているのに、5'端の方から分解が進行する。このため、一般に大腸菌のmRNAの寿命は数分と非常に短い、これが原核生物の一つの特徴です。

さまざまなRNAが、合成後に修飾を受けて完成品となる中で、原核生物のmRNAだけは、修飾されることなく完成品として使われるという特徴があります。

これに対して真核生物では、まずpre-mRNAができて、これがプロセシングを受けてmRNAとして完成した後、核から細胞質へと輸送させるため、真核生物では転写と翻訳が直接つながっていません。真核生物のmRNAは、寿命が数十分の短いものから、数ヶ月という非常に長寿命のものまで多種多様です。転写と翻訳が、空間的にも時間的にも別れているというところが原核生物と異なっています。

このことは様々な面での機能的な違いとして現れます。一つは遺伝子発現の調節、つまり遺伝子の情報からタンパク質ができるまでの調節の違いです。原核生物では、ある遺伝子の情報からタンパク質が作られるかどうかは、転写が起きるかどうかの調節が中心です。真核生物ではもちろんそれも重要ですが、それに加えて、転写以降の翻訳に至る様々な段階での調節が加わっています。


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