生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
癌患者および家族が安心して治療を受けるためには、高度で先進的な治療技術や施設に加え、癌の治療や進行に伴って起こるさまざまな問題をサポートする「緩和ケア」の体制が整っていることが大変重要です。癌患者と家族は、痛み、苦しさ、だるさ、食欲不振などの不快な身体症状に加え、死を前にした不安、仕事や家族の将来など生活上の問題、そして介護や療養先の選定など、多くの問題に直面します。これらの問題を患者、家族と一緒になって取り組む緩和ケアは、治療を遂行していく上で、また治療が困難になりケアが中心となる終末期において特に必要となります。癌治療と緩和ケアが一体となった医療を「包括的な癌治療」といいますが、このような体制を整えることが今強く求められています。
世界保健機構は1996年に緩和ケアの定義として、「緩和ケアは治癒を目指す治療行為に反応しない患者に対する積極的、かつ全体的なケアである。痛みやその他の身体的症状の包括的なコントロール、心理的および社会的ならびにスピリチュアルな問題への対応を最も重要視する。その目的は患者と家族にとって最も良い生命の質の達成である」と述べています。その後2002年に緩和ケアは、癌の診断時より提供される必要があることから、「治癒を目指す治療行為に反応しない患者」の部分が削除されました。以上の定義を具体化すると、次のようになります。
1. 治療中やケア中心の終末期を問わず患者を全人的に把握し、痛みなどの身体的症状のコントロールや精神的症状のサポートなどを行う。
2. 患者家族がケアの中心であり、インフォームド・コンセントを通し、患者家族がより良い選択ができるように援助する。
3. 医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、栄養士、理学・作業療法士、臨床心理士などの合同チームによる話し合いによりケアプランを立て、患者家族にとって最も良い生命・生活の質(QOL)が達成できるように援助する。
4. 療養場所の選定など、ケアが切れ目なく続くように地域の医療ネットワークと協力する。
つまり、緩和ケアは決して消極的なケアではなく、しっかりと生きていくためのサポートシステムなのです。
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