生物学翻訳、学術論文翻訳、環境翻訳担当の平井です。
バイオ医薬品というと「夢の新薬」とマスコミでいわれるので未来の話と思えるかもしれません。しかしすでにヒトインスリン、ヒト成長ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、エリスロポエチン、t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)など多くの第1世代のバイオ医薬品が発売され、現在は抗体医薬などの第2世代の時代に入っています。1990年代後半には、医薬品の世界売上ランキングの上位にバイオ医薬品がたくさん並んでおり、バイオ医薬品はもはや未来の話ではありません。
多くの医薬品は有機薬品に比べるとはるかに複雑な分子構造をしています。しかし分子の大きさという視点からは、あくまでも中ブロック程度の大きさです。これに対して、バイオ医薬品と呼ばれるものの多くは、タンパク質や糖タンパク質のような高分子です。しかも、この高分子は多種類のモノマー、プレポリマーからなり、モノマーの数も順番も決まっており、ばらつきはありません。そのため、高分子化学品のような重合による合成は困難です。
バイオ医薬品は合成が難しいために、動物組織からの抽出物が使われてきました。しかしヒトとは微妙に化学構造が違うために副作用が出たり、必要量が確保できなかったりの悩みがありました。バイオ医薬品をつくり出すヒト遺伝子が解明されると、遺伝子工学により、これを大腸菌、酵母や動物細胞などに組み込んで大量生産できるようになりました。
インスリンは膵臓で産出分泌され、血糖値を正常値に下げる有名なホルモンです。1921年に発見され、すでにウシやブタからの抽出物を糖尿病患者に注射薬で投与する治療法が確立されて長い間行われてきました。
しかし、ヒトインスリンと動物インスリンでは、細胞内の翻訳会社「リボソーム」で合成される、タンパク質を構成するアミノ酸が少し異なる上に、動物由来の不純物が混在し、アレルギー反応を起こす可能性が懸念されていました。ヒトの遺伝子組み換えでつくったバイオ医薬品が、このような問題を解決したのです。
|