「エリザベス女王が毛皮を新調しない方針とのニュースと、楽器における環境への配慮について」

高橋翻訳事務所

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2020/1/31
「エリザベス女王が毛皮を新調しない方針とのニュースと、楽器における環境への配慮について」

音楽翻訳担当の池上秀夫です。

イギリス王室のエリザベス女王(Elizabeth II)が今後は毛皮を新調しない方針であることが、先日報じられました。エコロジー(Ecology)や持続可能性(Sustainability)の動きがここまで広まっているのか、と実感させられたニュースでした。

音楽・楽器業界にとっても持続可能性は大きな問題となっています。特に木を素材とすることが大きい弦楽器の世界は、今この問題に直面しています。弦楽器に関わる中で「ワシントン条約」という名称を耳にすることがこの10〜20年の間に本当に増えました。

ワシントン条約は正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」(CITES)と言います。内容は読んで字のごとくです。楽器に使われる材料には、ワシントン条約による規制対象となっているものが多いのです。

代表的なところで言うと指板(Fingerboard)の材料として使われる黒檀(Ebony)やハカランダ(Jacaranda、“ジャカランダ”とも言う)があります。またヴァイオリン属の楽器の弓に使われるペルナンブコ(Pernambuco)という木も同条約の規制対象となっています。

このような状況への取り組みとして各メーカーや製作者が行っていることは、主に代替となる材料の採用と、植林などの自然保護活動の参加があげられます。

たとえばエリック・クラプトン(Eric Clapton)らが愛用していることでも知られるアコースティック・ギターの老舗メーカーであるマーチン(C.F. Martin & Co. Inc.)は、黒檀に代わる指板材として「リッチライト(Richlite)」という合成素材を採用しています。以前は安価な製品への使用が中心でしたが、最近は上級モデルでもこの素材が使用されるようになっています。黒檀の在庫の問題もあるでしょうし、ユーザーの評価の面でもリッチライト使用を拡大できると判断したようです。

またマーチンは、サスティナブル・ウッド(Sustainable Woods)と銘打って、森林保護団体が植林しながら管理しているチェリー材(Cherry)などの採用も進めています。

弦楽器製作者には、植林活動に積極的に取り組んでいる人も多くいます。ジャズ・ギタリスト、パット・メセニー(Pat Metheny)が愛用するギターを多く手がけるギター製作者(Luthier)のリンダ・マンザー(Linda Manzer)も、そのような植林活動に積極的な製作者の一人です。

ヴァイオリン属の弓については、カーボンなどの合成素材のものもかなり普及してきました。音に関してはペルナンブコ材にはなかなかかないませんが、アマチュアを中心に普及し、最近ではプロの奏者にもカーボン弓を使う人が増えてきました。

またこちらでも、上記のマーチンのような取り組みをする製作者が出てきています。ペルナンブコはブラジル(Brazil)が主な原産国なのですが、そのブラジルの弓メーカーであるマルコ・ラポソ(Marco Raposo)は、ブラジル政府の認証のもと、ペルナンブコの伐採の許可を得る一方でこの木の植林を行っています。

9月にニューヨークで開かれた国連気候行動サミット2019(UN Climate Action Summit 2019)における、スウェーデン(Sweden)の16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(Greta Ernman Thunberg)の演説が大きな注目を集めたことは記憶に新しいところです。楽器のように自分に身近なものの世界でも上記のような変化が起きていることに直面すると、やはりこの問題は待ったなしなのだな、と再認識させられます。


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