「注目される2本の音楽映画について」|音楽・医学コラム

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2021/9/24
「注目される2本の音楽映画について」

音楽翻訳担当の池上秀夫です。

新型コロナ感染症(COVID-19)の流行が続くなか、この春から夏にかけて、2本の音楽映画が注目を集めました。元トーキング・ヘッズ(Talking Heads)のリーダー、デイヴィッド・バーン(David Byrne)が製作した音楽パフォーマンスの舞台を、スパイク・リー(Spike Lee)監督が映像化した『アメリカン・ユートピア』(American Utopia)。もう一つは、伝説となっている1969年のウッドストック・フェスティバル(Woodstock Music and Art Festival)と同時期に開催されていたものの、これまで語られることがほとんどなかった「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」(Harlem Cultural Festival)を収めたフィルムが50年以上の時を経て発見され、これを映画化した『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(Summer of Soul (...Or, When the Revolution Could Not Be Televised))の2本です。

みなさんもご存知の通り、今年も昨年に続き、コンサートはもちろん、映画館に行くのも困難をともなうような状況が続くなか、それでもこの2作は音楽ファンから熱い注目を集め、高い評価を得ています。残念ながら私はまだどちらも見ることができずにいるのですが、近いうちに必ず見たいと思っています。

今回は音楽を扱った映画、特にライブを扱った映画について書いてみたいと思います。わたしが見たものに限定しますので、偏りはあろうかと思いますが、そこはご了承ください。

まず1本目は、上述の『アメリカン・ユートピア』つながりで、1984年の『ストップ・メイキング・センス』(Stop Making Sense)。デイヴィッド・バーン率いるトーキング・ヘッズの全盛期のライブを、『羊たちの沈黙』(The Silence of the Lambs)などの名作で知られるジョナサン・デミ(Jonathan Demme)の監督で映画化した作品です。侍の裃(かみしも)を連想させるような大きいスーツをまとったバーンの姿をあしらったポスターを覚えている方も多いのではないでしょうか。

ライブは、バーン一人によるギターの弾き語りからはじまります。そこへバンドのメンバーが次第に加わって音楽に広がりが生まれていき、ライブ終盤には当時の彼らが取り組んでいた、アフリカン・パーカッション(African Percussions)などを加えた大編成にまで達し、ある種の狂騒状態に至ってピークを迎える、という構成。才人デイヴィッド・バーンがリードするだけあって、その展開はシンプルながら見事なものです。そしてカメラは最初からずっとステージだけを映し続け、まるでスタジオ収録かのようなクールな雰囲気を醸し出し続けながら、最終盤になってようやく客席側にも向かい、ステージとともに盛り上がるオーディエンスを映し出すことによって、映画の観客にもその熱狂ぶりを共有させる、というなかなか心憎い演出がされています。もう40年近く前の作品ですが、今見ても十分に見ごたえのある映画、そして音楽だと思います。

続いては『真夏の夜のジャズ』(Jazz On A Summer's Day)。『サマー・オブ・ソウル』は1969年ですが、こちらは1958年に行われたニューポート・ジャズ・フェスティバル(Newport Jazz Festival)のドキュメンタリーです。『サマー……』の「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」は、アフリカ系アメリカ人公民権運動(African-American Civil Rights Movement)やベトナム反戦運動などの影響のもと、かなり物々しい雰囲気の中で行われたようですが、『真夏の夜のジャズ』のほうはその約10年前で、しかもリゾート地であるニューポートで行われたジャズフェスということで、雰囲気はかなり違ったものになっています。

ルイ・アームストロング(Louis Armstrong)やセロニアス・モンク(Thelonious Monk)、アニタ・オデイ(Anita O'Day)、ゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソン(Mahalia Jackson)と言った伝説的なミュージシャンたちの動く姿が見られるのも貴重ですし、チコ・ハミルトン(Chico Hamilton)やジミー・ジュフリー(Jimmy Giuffre)といった、当時の先鋭的なミュージシャンの演奏の映像が見られるのも素晴らしい。そして上述のとおり50年代後半のアメリカのリゾート地が舞台ということで、映画全体に感じられる瀟洒な雰囲気も見ものです。

3本目は、ロック・バンド、U2の『魂の叫び』(Rattle and Hum)。1988年の作品です。U2の名盤である「ヨシュア・トゥリー」(The Joshua Tree)の発表にあわせたアメリカ・ツアーの模様を収めた映画です。同アルバムでアメリカ音楽を大胆に取り入れ、アイルランドの人気ロック・バンドから世界レベルのビッグ・ネームに成長するU2の姿をとらえた貴重な作品だと、わたしは考えています。

この映画の中でもブルースの王様BB・キング(BB King)やボブ・ディラン(Bob Dylan)といったアメリカの大物ミュージシャンとの共演がおさめられています。発表当時は「大物になりたがっている」等々の批判も受けましたが、現在では「U2流のアメリカン・ルーツ・ミュージックへのアプローチ」として評価する声のほうが多くなっていると感じています。実際、この映画で聴かれる音楽も、非常に充実したものばかりです。

また、ライブ映像の間にはさまれるインタビューの中で、ボーカルのボノ(Bono)が、このアメリカ・ツアーの中で、彼らの出世作である「ブラディ・サンデー」(Sunday Bloody Sunday)を演奏するかどうか逡巡があった、ということを語っています。世界的な存在になっていく中で自分たちのルーツをどう考えるのか、というかなり根源的な悩みを感じさせる言葉で、短いながらも非常に興味深いものがありました。

そして、自分たちのルーツを見つめ、アメリカという国の文化と向き合う姿を見せていきながら映画の終盤では、これも彼らの代表的なヒット曲であり、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師(Martin Luther King, Jr.)を讃えた『プライド』(Pride ? In The Name of Love)が演奏される展開は、感動的ですらあります。

今回は、自分の記憶に残っているライブ映画について書かせていただきました。もちろん他にも、素晴らしいライブ映画はたくさんあります。心配することなく映画、そしてコンサートに足を運ぶことができる日が戻ってくることを願ってやみません。


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