音楽翻訳担当の池上秀夫です。
前回は新型コロナウイルス(COVID-19)感染が音楽におよぼす影響として、コンサートに関する問題について書きました。今回は、もうひとつ別の問題について書きたいと思います。それは「ネット配信(web broadcast)」
前回取り上げたように、ベルリン・フィルハーモニー交響楽団(The Berliner Philharmoniker)は比較的早い時期と言える今年3月、ソーシャル・ディスタンス(Social Distance)を反映した編成による無観客コンサートのネット配信を行いました。ベルリン・フィルは以前から、楽団のウェブサイトを通じたコンサートの有料配信を実施していました。今回についても、その取り組みによって既にできあがっていた基盤を利用することができたので、比較的早い時期から無観客のネット配信も実施できたのだと思います。
コロナ禍における音楽家の取り組みとして大きな注目をあつめたものの一つに、レディ・ガガ(Lady Gaga)が主導して行われたネット上のチャリティ・コンサート「One World: Together at Home」があります。これは、レディ・ガガの呼びかけに応じた音楽家たちの、自宅での演奏を収めた動画を集めてネット配信するというもので、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)やザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)らといった、非常に豪華な面々が集まったことでも話題となりました。
また日本では、星野源がネット上で公開した「うちで踊ろう」という曲に多くのアーティストが自身の演奏やパフォーマンスを重ねて公開する、という取り組みが話題になったことは皆さんも覚えていらっしゃると思います(音楽以外の部分でも話題になりましたが)。
ちなみに上記の例は、いずれも事前に収録したものをネット上に流す、というものでした。これとは別に、演奏を生で配信する、という取り組みも行われています。
実は筆者も音楽活動をしているのですが、ある共演者の呼びかけでこの「生配信(live streaming)」に挑戦しました(生演奏であり、その後の動画の公開期間も終了しているのでURLなどの情報は省略させていただきます)。
この時は、最近よく話題にのぼるネット会議アプリ「Zoom」を使ってグループが共演し、YouTubeを利用してそれを配信する、という形をとりました。
この時は演奏者5名で、各自が自宅からZoomで演奏に参加するというものだったのですが、正直言って難しさはありました。特に問題になったのが、音の遅れ、いわゆるレイテンシー(latency)です。
これは音声などをネットにのせる際にどうしても生じてしまうものなのですが、音楽の場合、ほんのわずかなズレでも演奏に影響してしまうので、問題はよりシビアになります。この時はリーダーの人の工夫でレイテンシーによるずれを逆手に取るような演奏内容になったことで乗り越えたのですが、ネットを介した共演の難しさを実感しました。
このような問題を考えると、事前に収録したものを流す、というアプローチが主流で当面は推移するのかな、と感じています。いずれにせよ、以前から発展しつつあった演奏のネット配信が今回のコロナ禍を受けてさらに増えていくことは間違いなく、音楽の届け方、聞き方が変わっていく一つのきっかけになるのではないかと思われます。今後の展開に注目です。
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