音楽翻訳担当の池上秀夫です。
非常事態宣言は解除されましたが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染の影響はいまだに世界を覆っています。今回の感染症拡大が音楽の世界にも深刻な影響を及ぼしていることは、皆さまもご存知かと思います。
やはり何と言っても、コンサート会場を満員にできなくなってしまったことは深刻です。コンサートの収益はその大部分がチケットによる収入に頼っているわけですから、会場に半数の観客しか入れられないとなると、単純計算で言えば収入も半分になってしまいます。当然のことながら、それではビジネスは立ちいかなくなってしまいます。チケット代を値上げするにしても、値上げ自体が売り上げの減少につながる可能性は高いので、これも簡単にできるものではない。当分の間は、音楽業界もこの非常に厳しい状況に置かれることになりそうです。
いわゆる「ソーシャル・ディスタンス(Social Distance)」が求められるのは客席だけではありません。舞台の上でも同じです。
3月にベルリン・フィルハーモニー交響楽団(The Berliner Philharmoniker)が、ソーシャル・ディスタンスを意識した舞台構成によるコンサートを配信して話題になりました(The New York Timesが写真入りの記事を出していましたので、リンクを貼らせていただきます:https://www.nytimes.com/2020/05/01/arts/music/berlin-philharmonic-coronavirus.html)。
いつもなら舞台いっぱいに並ぶオーケストラ(orchestra)が奏でる音楽が響く、本拠地フィルハーモニー(Berliner Philharmonie)の舞台上で、この時は10名に満たない演奏家たちが、しかも大きい間隔を保って配置される様子に衝撃を受けた人も少なくないかと思います。
舞台上について言うと、特に問題視されているのが管楽器(wind instruments)の演奏による飛沫です。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(Wiener Philharmoniker)による飛沫実験は、テレビのニュースでも取り上げられていましたし、日本でも東京都交響楽団(Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra)や読売交響楽団(Yomiuri Nippon Symphony Orchestra, Tokyo)など、多くのオーケストラや団体が同様の実験を行い、動画などを公表しています。
これらの実験については、予想されたよりも飛沫の飛散は少ない、という結果が多い一方で「本当に盛り上がった時の演奏の状況が反映されていない」等の批判も出されており、一般化できる結果はまだ得られていないというのが実情です。
また、必要なこととは言え、演奏者たちの間隔が大きすぎると、演奏中のコミュニケーションもとりにくくなり、ひいては演奏の質にも影響してしまう可能性は否めません。
感染症との闘いが続く中、音楽関係者たちの苦闘もまだまだ続きそうです。
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