高橋翻訳事務所で経済分野の翻訳を担当している佐々木と申します。今回は新型コロナウイルスの影響を大きく受けている航空業界についてです。
10都道府県に対して出されている3回目の緊急事態宣言(state of emergency)ですが、再延長した6月に入って感染者数の減少ペースが鈍化するなか、政府は緊急事態宣言を6月20日の期限で終了し(沖縄県以外)、東京など7都道府県についてはまん延防止等重点措置に移行することを決めました。しかし、すでに専門家からは再拡大の懸念が表明されており、特に東京都は感染者が1日あたり500人前後で推移している状況での宣言解除に疑問の声も上がっています。このような声を無視し、新型コロナウイルス対策よりもオリンピック、パラリンピックを優先して、国民に対する明確な説明や大会期間中のプランがないまま開催を強行しようとしているIOC(International Olympic Committee)や政府、組織委員会への風当たりは強まるばかりです。高齢者を中心にワクチン接種は進んでいますが、世界的な大規模イベントを「安心、安全」に終了させることは本当に可能なのか、不安は尽きません。
コロナ禍の苦境に立たされている航空業界ですが、2020年の旅客数は前年比で国際線81.4%、国内線56.2%のマイナスと大幅に減少したこともあり、2021年3月期の連結決算ではANAホールディングスが4,046億円、日本航空(JAL)が2,870億円と、過去最大の赤字を記録しました。これまでも2001年のアメリカ同時多発テロ事件(September 11 attacks)や2008年のリーマンショック後に航空需要は激減しましたが、今回は過去を大きく上回る落ち込みになると見られています。航空業界は人件費(乗務員や整備士など)や設備費(航空機のリース料や維持費など)をはじめとする固定費(fixed cost)の割合が高いため、航空各社は従業員の外部出向や大型機から中・小型機への移行を進めることで人件費や燃料費を抑制し、コスト削減を推し進めることで赤字額をある程度は縮小することができました。しかし、2021年3月の旅客人数も前年同月比で国際線が80%超、国内線が20%前後の減少となっており、依然としてトンネルの出口が見えない状況は続いています。2020年冬のボーナスについて、ANAグループはゼロ、JALは0.5カ月分となりましたが、2021年の夏もANAはゼロ、JALは0.3カ月分とする方針を組合に提示し、ANAは冬もゼロの提案がされているという報道もあります。
成田空港(Narita International Airport)がある成田市では、航空人材の雇用維持に協力するために、ANAグループから出向社員7人を任意付き職員として採用しました。任期は1年で、一般行政職として窓口対応や観光振興などを担当しています。その他、佐賀県などの地方自治体だけでなく、家電量販店、ホテル、小売店などの民間企業も受け入れを表明しており、これまでにANAグループは約800人、JALは約1,500人の出向が決まっています。厚生労働省(Ministry of Health, Labour and Welfare)も出向者の雇用元と受け入れ先を支援するため、1日あたり12,000円を上限に人件費の最大9割を補助する助成金制度も創設しました。
大手の航空会社だけでなく、新型コロナウイルスの影響は格安航空会社(low-cost carrier)も直撃しています。2020年11月にはエアアジア・ジャパンが経営悪化のため自己破産を申請し、12月に日本路線が廃止となりました。ジェットスター・ジャパンも日本国内の6路線を廃止したり、他路線の季節運航への切り替えを行ったりして難局を乗り切ろうとしています。また、2018年に設立されたJALの完全子会社であるジップエア・トーキョーも2020年5月に旅客便の営業開始を予定していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により半年ほど遅れての就航となりました。
ANAは、同様にコロナ禍の影響を受けているブライダル会社と協力し、5月と6月に機内ウェディングを実施することを発表しました。駐機中の機体を貸し切り(挙式のみまたは挙式と披露宴がセットになったプランの2種類)、挙式では客室乗務員が機内アナウンス風の祝福メッセージでお祝いしたりファーストクラスやビジネスクラス用のラウンジを利用したりできるなど、通常では経験できないような雰囲気が好評で、全日程の募集はすでに埋まっています。その他にも羽田空港やフライトシミュレーター内での撮影ができるフォトウェディングプランも人気を博しています。
ワクチン接種が進むアメリカでは経済活動も徐々に再開し、在宅勤務から出勤への切り替えを容認する企業も増えているなど、小売業や飲食店、観光業の回復が期待されています。また、昨年7月に開始したGoToトラベルキャンペーンも現在は休止中ですが、国内の感染状況が落ち着いてくれば再開する見込みとなっているため、個人旅行を含めた観光需要の高まりを取り込むことができるかどうかが航空業界の再浮上にとって重要となるでしょう。
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