高橋翻訳事務所で経済分野の翻訳を担当している佐々木と申します。今回は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大と経済活動の両立を図るために模索している旅行、観光業界についてです。
新型コロナウイルスの影響を大きく受けている旅行、観光業界ですが、大手旅行業者の旅行取扱状況が前年同月比(YoY: year-on-year、year-over-year)でマイナス90%を超える減少を記録するなど、厳しい状況が続いています。観光需要を喚起するために7月から開始された「Go To Travelキャンペーン」では直前で東京都が除外されるなど物議を醸しましたが、8月に国土交通省(Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism)が発表した情報によると、割引商品の販売が始まった7月27日から8月20日までで延べ約420万人が利用し、一定程度の効果が現れているとのことです。当初はキャンペーンによる感染拡大の懸念もありましたが、事前登録した宿泊施設を利用後に感染が判明した人はこれまでのところ数十人程度と、大きな混乱は起きていません。
3つの密(three Cs: closed spaces, crowded places, close-contact settings)を避ける行動はもちろんですが、宿泊施設も業界ガイドラインに従い、宿泊者に対して名簿への正確な情報の記載や手洗い、咳エチケットの協力を依頼したり、従業員も手洗い、手指消毒、咳エチケットの徹底や出勤時の体温測定、不要不急の外出の自粛、経営サイドも保健所との連携や感染者が出た場合の連絡体制の整備、情報収集、消毒に必要な物品の手配などの対策をしています。具体的には、到着時の手指消毒を依頼、チェックイン時の混雑を避けるために間隔を空けて待つ、もしくは客室でチェックイン手続きを行う、フロントデスクにアクリル板や透明のビニールカーテンを設置し、客室はドアノブやテレビ、エアコンのリモコン、照明のスイッチなどのほか、部屋の備品の消毒を徹底し、大浴場では人数制限を設け、人との距離の確保や会話を控えるよう要請するようにしています。特に注意が必要な食事の際も、レストランでは食事開始まで宿泊客にマスクの着用を要請し、従業員はマスクやフェイスシールドを着用、手洗い、手指消毒の徹底、横並び着席の推奨、テーブル、座席間隔の確保、1人用の盛り付けへの変更、ビュッフェでは料理を小皿に盛って提供したりスタッフが料理を取り分けたりするなどの対応を取っています。
観光業界も工夫を凝らしたさまざまなサービスを提供しています。香川県に本社があるバス会社は、新型コロナウイルスの影響で通常のバスツアーが中止になるなか、ウェブ会議システムのZoomを利用したオンラインでのバスツアーを企画し、好評を博しています。自宅にいながら高知県や徳島県、香川県などの名所を巡るバスツアーに参加することができ、観光地の景色や動画を見るだけでなく、案内を聞きながら現地の人や他の参加者との会話を楽しむことができます。また、プランによっては事前に食事が自宅に届けられ、ツアー中に食事をしながら参加したり、途中で立ち寄った現地の店舗で食べ物やお土産を購入したりすることも可能です。時間は2時間程度で料金も5,000円前後とリーズナブルなため、気軽に参加できることも人気の要因になっています。また、日本国内の大手旅行会社も海外拠点を活用したオンラインでの現地体験ツアーを取り扱っています。ハワイのワイキキやインドのタージマハル、ペルーのマチュピチュなど、世界的に有名な観光スポットを現地ガイドの説明を聞きながら楽しむことができます。
各観光地も独自のガイドラインを作成し、対策を徹底しながら新たな観光スタイルを取り入れています。2019年には5,000万人を超える観光客が訪れた京都市では、京都市観光協会(Kyoto City Tourism Association)が、23の業界団体と共同で新型コロナウイルス対策のガイドラインを作成しており、「新しい観光様式」として、住民、観光客、観光従事者の感染リスクを最小化し、すべての観光客を温かく迎え入れることを宣言しています。また、宣言を実現するための行動原則として、施設やサービスにおける感染対策の徹底、従業員における感染対策および健康管理の徹底、観光客に対する感染対策への協力要請の徹底、観光客や従業員に感染の疑いが出た際の対応および準備の徹底、観光客に対するホスピタリティのある受け入れの徹底、各業界の事情に即した取り組みの徹底を掲げています。その他、3密を回避しながら観光を楽しむことができるよう、市内の混雑状況をオンライン上で確認できる混雑レーダーを導入しました。
10月からはGo Toトラベルキャンペーンの対象に東京発着も含まれることが決定しており、Go Toイートキャンペーンも認定事業者が発表されました。イベントの開催制限についても、プロ野球やJリーグなどの大規模イベントで設けられている5,000人の上限は撤廃となり、新型コロナウイルスと共存しながらの日常生活が戻りつつあります。しかし、感染が再拡大してしまうとこれまでの努力が水の泡となってしまうため、一人ひとりが感染対策を十分に取りながら楽しむことが求められます。
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