高橋翻訳事務所で政治経済の翻訳を担当している佐々木と申します。今回は食品ロス(food loss)の問題と対策について取り上げていきます。
消費者庁(Consumers Affairs Agency)によると、食品ロスは「まだ食べられるのに廃棄される食品」を意味し、日本では年間643万トン(平成28年度)と推計されています。内訳は、事業系(食品関連事業者から発生)の食品ロスが352万トン(規格外品、返品、売れ残り、食べ残し)、家庭系(一般家庭から発生)の食品ロスが291万トン(食べ残し、過剰除去、直接廃棄)で、それぞれ前年度比マイナス5万トン、プラス2万トンでした。この数字は世界全体で援助している食料の約2倍に相当し、廃棄コストは年間2兆円に達しているため、食品ロスの問題は近年注目を集め始めています。食品産業では、平成24年に環境省(Ministry of the Environment)と農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)が食品リサイクル法(Food Waste Recycling Act)に基づいて業種別に「発生抑制の目標値」を設定し、食品ロスの削減を進めていますが、資源の有効活用や環境保護の観点から、さらなる取り組みが求められています。
食品ロスを削減するための有効な対策の1つは、消費期限(expiry date)と賞味期限(best-by date)を正しく理解することです。まず、消費期限は定められた保存方法を守って保存した場合に「安全性に欠くおそれがないと認められる期限」であり、品質の劣化が早い食品(弁当、総菜、生菓子類、食肉など)に表示されます。そのため、消費期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありませんが、食べられるかどうかの判断は個人の責任で行わなければなりません。賞味期限は定められた保存方法を守って保存した場合に「期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限」で、消費期限に比べて品質の劣化が遅い食品(スナック菓子、缶詰、牛乳、乳製品など)に用いられます(製造日から賞味期限までの期間が3カ月以上の食品は年月での表示が可能)。いずれにしても、消費期限、賞味期限にかかわらず、開封したものはなるべく早めに食べるようにすることが大前提です。
スーパーマーケットなどでは消費期限、賞味期限が近くなった食品を値引きして販売しており、「〇〇%引き」といったシールが貼ってある総菜などを見たことがあるかと思います。しかし、コンビニエンスストアでは定価販売が定着しており、弁当やサンドイッチなどの値引きはこれまで行われていませんでした。この流れが変わったのが2009年に出された公正取引委員会(Japan Fair Trade Commission)の排除措置命令で、コンビニエンスストアの本部サイドが加盟店の値引き販売を制限している点を指摘しました。大手のコンビニエンスストアでは、2019年から販売期限の近づいた弁当や麺類などを購入する際にポイントを還元し、値引き金額は本部が負担するという取り組みを開始しました。このような取り組みが浸透すれば加盟店の廃棄コストの負担が軽くなり、コンビニエンスストアの食品ロスが大幅に削減されることも見込まれるため、各社が同様のシステムを採用することが期待されています。
その他、食品ロスとなってしまいやすいのは、災害に備えて備蓄している食品の賞味期限切れです。レトルト食品や缶詰、水などを普段から備蓄している家庭も多いと思いますが、あまり目につかない場所に保管しているために賞味期限が過ぎてしまったという経験はないでしょうか。このようなケースを防止するために提唱されている対策が、ローリングストック法です。ローリングストック法とは、備蓄している食料を日常のなかで食材として使い、使った分だけを新しく買い足していくことで常に一定量の食料を備蓄しておく方法です。ウェブサイトなどで非常食を活用したレシピが紹介されているだけでなく、学校給食でも備蓄食料を使ったメニューが提供されており、「備える、食べる、買い足す」を上手に活用する習慣を身につける必要があります。環境省のウェブサイトでも食品ロスの取り組みについて紹介されています。そのなかでも特に宴会は食べ残しが多く出るため、飲食店での新たな食べ残し対策として掲げられているのが「3010運動」です。「3010運動」とは、乾杯後30分間、終了前10分間は自分の席で料理を楽しむ時間を設ける取り組みで、それでも料理が残ってしまった場合はドギーバッグ(doggy bag)で持ち帰るようにすることで、食品ロスを削減します。
このように、環境省や農林水産省、消費者庁などが中心となって食品ロスを削減するさまざまな対策が進められています。日々の取り組みは小さなものですが、一人ひとりの普段からの心掛けが大きな成果を挙げる近道であり、「できることから始める」という主体的な姿勢が重要となるでしょう。
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