リース取引について

高橋翻訳事務所

契約書・政治経済・アート・スポーツコラム

契約書・政治経済・アート・スポーツコラム一覧へ戻る

2019/07/04
リース取引について

高橋翻訳事務所で契約書・法律文書の翻訳を担当している佐々木と申します。今回は航空機業界と航空機リース取引、航空機ファイナンス取引の関係について取り上げていきます。

リース取引にはオペレーティングリース(operating lease)とファイナンスリース(finance lease)があり、航空機リースでは主にオペレーティングリースが用いられています。税制上のメリットが大きいのが主な理由で、航空機のオペレーティングリースは契約期間に応じてリース料を支払い、契約が終了すると航空機を返却するという流れになっています。リース料は販売費および一般管理費(SGA: Selling, general and administrative expenses)として計上され、オペレーティングリースで取得した航空機は貸借対照表(balance sheet)に計上する必要がありません。これはオフバランスと呼ばれ、通常の事業で活用されている資産、負債が貸借対照表に計上されないケースを指します。このように処理することで企業価値や信用格付を高め、総資産利益率(ROA: Return on assets)を向上させることが可能になります。ROAは企業の全資産をどのくらい効率的に活用して利益を上げているかを示す数値で、財務指標の1つとして考えられているため、ROAの数値が高い企業は収益性、効率性に優れているとされます。類似する指標で自己資本利益率(ROE: Return on equity)もありますが、こちらは企業の自己資本に対する当期純利益の割合で、企業が自己資本をどのくらい効率的に運用して利益を生み出しているかを表しています。自己資本利益率が高いと経営効率が高い企業、低いと経営効率が悪い企業と判断されます。オフバランス取引の代表例であるリース取引ですが、国際的に会計基準が厳格化されるなかでリース資産を計上する傾向に向かっており、国際財務報告基準(IFRS: International Financial Reporting Standards)や米国会計基準(GAAP: Generally Accepted Accounting Principles)はリース資産をすべて計上するルールをすでに導入しています。日本でも企業会計基準委員会(ASBJ: Accounting Standards Board of Japan)が基準の見直しに着手していますが、オンバランスへの移行に対する慎重論や反対意見もあるため、導入には数年かかると見込まれています。リース資産を計上することによって資産や負債が増加するなど数値上の財務指標が悪化し、投資家の判断に影響が出ることも予想されますが、財務の透明性を高めるという点では国際基準に合わせることが必要との見解もあります。

航空会社がオペレーティングリースを活用するもう1つの理由は、航空機を売却する際のリスクを回避するという点です。航空機の寿命は20〜30年と言われていますが、自社で購入した航空機を売却する場合、売却時の中古航空機市場の影響を大きく受けます。例えば、市場に数多くの中古航空機が出回っていたり、機齢が若く、性能も高い航空機が存在したりする場合は売却金額も下がるため、帳簿価格の高い航空機では売却損(loss on sale)が出てしまいます。オペレーティングリースでは、リース期間が終了すると航空機を返却するだけですので、このような売却リスクを負うことはなく、状況に応じてリース期間を延長するなど、ケースバイケースで対応することも可能です。今後の中古航空機市場についてですが、2019年にジェットクラフト社が発表した5年予測によると、今後5年間の中古航空機の取引は1万2,765件(610億ドル)になると見込まれています。また、中古航空機の市場は新造航空機の市場よりも速いペースで成長し、2023年には取引数が新造機の4倍になると見られています。

オペレーティングリースのその他のメリットとしては、柔軟なポートフォリオ戦略を立てられるという点です。航空会社にとって路線ネットワークを維持、拡大、調整することは最重要戦略の1つですが、不採算路線を廃止しなければならないケースも出てきます。その場合、国土交通省(MLIT: Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism)などとの事前協議が必要になるため、路線を廃止するのではなく、小型機に入れ替えるという選択肢もありますが、自社保有機ではポートフォリオの調整を迅速に行うことは難しいのが現状です。同様に、新規路線を開拓する場合も、リースのほうが航空機の調達をスムーズに行うことができます。また、航空会社は一定の年数が経過した航空機のリース契約が終了したときに延長をせず、新しいリース機に入れ替えることで、ポートフォリオの平均機齢を適切に管理し、整備費用を抑制するといった戦略を取ることが可能になります。

国際航空運送協会(IATA: International Air Transport Association)は、世界の航空旅客数が2037年に82億人に達するとの予想を発表しています(2017年は約41億人)。航空業界を取り巻く環境も、業界再編やアライアンスの形成、インフラ整備、環境問題、LCC(low cost carrier)の台頭、原油価格の高騰など、時代とともに変化していくなかで、航空会社間の競争は激しさを増しています。さらに、航空需要増への対応として機体の大型化が進んでおり、1機あたりの価格も上昇しているため、航空機リースの存在は今後もますます重要になってくると見込まれています。


契約書・政治経済・アート・スポーツコラム一覧へ戻る


ご利用の際は、必ずご利用上の注意・免責事項をお読みください。