高橋翻訳事務所で契約書・法律文書の翻訳を担当している佐々木と申します。今回も引き続き、航空機の開発、製造プロセスについて取り上げていきます。
前回のコラムでは組立作業まで見ていきましたが、航空機の組立が終了すると、次の工程ではさまざまな試験が行われます。航空機を実際に飛行させる試験飛行(test flight)では、主に計器の較正や飛行時の安定性、操縦性の確認、離陸、巡航、着陸など一般的な性能のチェック、騒音証明を取得するためのテストが行われます(試験飛行は基本的に航空機メーカーのテストパイロットが実施)。
航空機騒音証明(aircraft noise certification)は、1944年に採択された国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation、通称:シカゴ条約(Chicago Convention))の第16附属書第1巻に規定されている制度で、亜音速ジェット機、プロペラ機、ヘリコプターなどの分類ごとに騒音の基準値が設定されており、その値をクリアすると航空機の登録国が騒音証明を発行します。航空機の騒音は1960年代に世界的な問題となり、1970年に航空機騒音委員会(CAN:Committee on Aircraft Noise)が発足しました。その後、航空環境保全委員会(CAEP:Committee on Aviation Environmental Protection)が国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)の理事会によって設立され、航空機の騒音問題に取り組んでいます。CAEPは日本を含む25のメンバー国と17のオブザーバー(6カ国、11団体)から構成され、本会議が3年に1回のペースで開催されています。委員会には各種ワーキンググループやタスクフォースが存在し、航空機の騒音や排出ガスの抑制、地球温暖化問題などに関する具体的な研究や検討を行っています。
試験飛行の他にも、低速離陸テストや空港適合性テスト、寒中・猛暑テスト、着氷テストなど、さまざまなテストがあります。これらの試験を終えると、最終テストとして型式証明(type certificate)の取得に向けた技術路線実証飛行が実施されます。実証飛行は欧州航空安全局(EASA:European Aviation Safety Agency)やアメリカ連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)の査察パイロットが同乗して、通常の運航と同じ条件で行われます。テストでは150時間以上の連続したフライトだけでなく、ボーディングブリッジの接合、機内清掃、給油などの細かなオペレーションも確認します。
これらの試験を経て、正式な型式証明が発行されます。以上が航空機の開発計画から製造、試験までの主な流れですが、この他にも航空会社が新規航空機を導入する際に行う試験があります。これは実用段階における試験飛行で、航空機の性能や構造、システムが航空会社の要求を満たしているか確認するだけでなく、パイロットや乗務員が航空機のオペレーションに慣れるために行われます。成田・ホノルル間に就航したエアバスA380も、成田空港と関西国際空港の間で数回の試験飛行が実施されました。新型機の開発から型式証明の発行までには、どのくらいの時間が必要なのでしょうか。エアバスA380を例に挙げると、開発は1990年代前半に始まり、型式証明を取得したのが2006年ですので、約15年を費やしたことになります。しかし、航空会社のフリート戦略の見直しや発注のキャンセルが相次いだ結果、エアバスA380は生産開始からわずか15年の2021年に生産中止となることが発表されました。
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