契約書翻訳、経済翻訳、政治翻訳、スポーツ翻訳担当の佐々木です。
今回は引き続き典型契約(使用貸借、寄託、組合)について取り上げていきます。
・使用貸借
使用貸借は、民法第593条で「当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と規定されています。
契約期間に返還する時期が決められているときはその時期に目的物を返還しなければなりません。使用貸借と賃貸借の大きな違いは対価を支払う(有償)か、支払わない(無償)点にあり、使用貸借は主に親族や友人間など信頼関係に基づいて行われます。
例えば、友人から本を借りたり、親から自動車を借りたりする場合などがあります。また、知人にアパートを無償で貸す場合も使用貸借になりますが、家賃を払うと賃貸借になります。以前に賃貸借について取り上げましたが、アパートなどを借りる際には賃貸契約書(residential tenancy agreement)が必要です。ここで賃貸契約書に含まれる用語をいくつか紹介しましょう。
・貸主(landlord)
・借主(tenant)
・連帯保証人(guarantor)
・所在地(address of place being rented to tenant)
・賃貸借の期間(length of tenancy)
期間の定めがある場合は、いつからいつまでかが明記されます。通常、アパートなどの賃貸借契約は2年間で、2年ごとに更新料(renewal fee)を支払うというケースが一般的です。更新料の支払いについては近年、訴訟にまで発展するケースが増えていますので、契約前に必ず確認が必要です。
ちなみに、更新料は消費者契約法に抵触しているとして無効を訴えた裁判も過去にありましたが、最高裁は「高額過ぎなければ有効」との判断を示しました。しかし、更新料については値下げや廃止の傾向が強まってきているのが実情です。
・賃料(rent)
光熱費や駐車場が賃料に含まれている場合はその旨が記載されます。
・保証金/敷金(security deposit)
・申込金(application fee)
申し込み時に支払う費用ですが、契約に至らなかった場合に返金されるかは事前に確認が必要です。
・管理費(management fee)
物件の維持管理に必要な費用で、賃料に含まれている場合もあります。
・共益費(common service fee)
廊下や階段、エレベーター、外灯、清掃費など共用部分を維持、管理するための費用です。こちらも賃料に含まれている場合があります。
・ペット損害保証金(pet damage deposit)
最近はペットも入居可能な賃貸物件が多くありますが、ペットを飼う場合は床や壁などに傷をつけてしまう可能性が高いため、退去時に修繕するための費用です。
・現状検査(condition inspection)
貸主と借主が契約、入居前に賃貸物件を検査し、現在の状態を確認します。特にペットと入居する場合は床や壁などに傷がついていないかをきちんとチェックしましょう。
・賃料の支払い(payment of rent)
いつまでに賃料を支払うか、また、支払方法(銀行振り込み、クレジットカードなど)についても記載されます。
・賃料の値上げ(rent increase)
貸主が賃料を値上げする際のルールです。例えば、値上げする場合には3か月前に書面による通知をする、値上げの金額は法律で定められた範囲内とするなど。
・転貸(assign or sublet)
借主が物件を第三者に貸す際の規則です。転貸する場合は貸主の同意が必要となり、第三者はその権利や義務を引き継ぎます。貸主の同意がない転貸(無断転貸)があった場合、貸主は契約を解除できることが民法上で規定されていますので、後々のトラブルを避けるために転貸をする場合は事前に貸主の同意を得るようにしましょう。
・修繕(repairs)
修繕に関する事項です。退去時の原状回復(restoration to original condition: To repair areas of the housing you have broken or damaged before vacating the housing)については訴訟にまで発展するケースも多々発生していますが、入居時の確認は必須です。
トラブルの増加に対応するため、国土交通省もガイドライン(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)を作成していますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。同ガイドラインでは、現行回復の定義を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とし、経年変化や通常の使用による損耗などの修繕費用は賃料に含まれるものとしています。
・カギ(locks)
貸主が物件のカギを交換する際の取り決めです。借主に無断で交換しない、交換する際は新しいカギを借主に渡すこと、紛失した場合の費用負担などについてです。
・貸主の部屋への立ち入り(landlord’s entry into rental unit)
貸主が借主の物件内に立ち入る際のルールです。立ち入る際には合理的な理由や日時を記した書面による事前の通知を必要とする、緊急時には無断で立ち入る可能性がある、メンテナンスによる立ち入りなどが記載されます。
・賃貸契約の終了(ending the tenancy)
契約の終了に関する条項です。借主が退去する場合は数か月前に貸主に通知すること、期間を定めた賃貸契約の場合の自動更新などが定められます。
・紛争の解決(dispute resolution)
貸主と借主の間でトラブルが発生した場合の取り決めです。双方の話し合いや少額訴訟、民事調停が解決の主な手段となっています。
・その他の事項(additional terms)
上記以外に記載すべき項目が含まれます。
また、不動産の売買契約や賃貸契約に際しては、契約前に重要事項説明(important points explanation)が宅地建物取引業法(Building Lots and Buildings Transaction Business Law)第35条で義務づけられており、宅地建物取引主任者(registered real estate broker)が、物件の詳細な内容や契約条件に関して書面を交付し、口頭で説明をします。 トラブルを避けるためにも、物件の状態や設備、賃料、退去時の精算方法については特にしっかりと確認し、不明点がないようにしておきましょう。
しかし、貸主と直接契約をする場合は重要事項説明の義務がありませんので、気になる点があれば自ら確認が必要です。重要事項説明義務の違反による行政指導や処分は増加傾向にあるため、借りる側も危機意識を持たなければなりません。近年はだいぶ改善されてきましたが、不動産の賃貸契約についてはまだまだ貸主が強く、借主が弱い立場という構図が現状です。トラブルや不明な点があれば、弁護士や市役所、国民生活センターなどに相談することをお勧めします。
続いての典型契約は寄託(deposition/bailment contract)です。あまりなじみがない言葉かもしれませんが、「きたく」と読み、民法第657条では「当事者の一方が相手方のために保管することを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と定められています。
例えば、ある一定の期間、知人の貴重品を預かる場合など、他人に依頼されて物を保管することです。寄託契約は原則として無償契約ですが、保管料を受け取るなど報酬の特約を付けると有償契約になります。
受寄者(物を預かっている人)は有償寄託の場合、善管注意義務を負いますが、無償寄託では「自己の財産に対するのと同一の注意」をもって保管するという義務になります(民法第659条)。
返還についてですが、期間を定めていても寄託者(物を預けた人)はいつでも返還を請求することができ(民法第662条)、受寄者も期間の定めがないときはいつでも返還することができますが、期間の定めがある場合はやむを得ない理由がなければ期限前に返還をすることができません(民法第663条)。
ここで、絵画寄託契約書の主な内容を紹介します。
・契約の成立(completion/commencement of contract)
寄託者が所有する絵画(数量も明記)を受寄者が保管することを約束する旨が記載されます。
・報酬(deposition/bailment fee)
寄託者が受寄者に支払う報酬(保管料)と支払期限、支払方法などが記されます。
・保管場所(depository/storage)
受寄者が絵画を保管する場所を明記します。
・点検(inspection)
寄託者はいつでも寄託物を点検することができる旨が記載されます。
・報告(report)
受寄者は、絵画が破損、もしくはそのおそれがある場合、直ちに寄託者に報告しなければならない旨を明記します。
・保管期間(deposition/bailment period)
保管する期間がいつまでかを明記し、保管期間が終了しても寄託者が寄託物を引き取らない場合の報酬、違約金についても記されます。
以上が絵画寄託契約書に記載される主な項目ですが、契約の内容によってはその他に火災保険(fire insurance)や損害賠償(compensation for loss/damage)、免責事項(disclaimer)、機密保持(confidentiality)、契約の解除(termination)などに関しても取り決めがなされます。
損害賠償については、「寄託者は寄託物の性質または瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質もしくは瑕疵を知らなかったとき、または受寄者がこれを知っていたときはこの限りではない」と民法第661条に定義されています。
寄託契約に類似したものに消費寄託契約がありますが、受寄者が寄託物を消費することができる寄託契約のことです(民法第666条)。
金融機関の預貯金や証券会社が顧客から有価証券を寄託される場合が含まれ、受寄者がこれを消費した場合は同じ種類、品質、数量のものを返還しなければなりません。
消費寄託契約には原則として消費貸借の規定が準用されますが、返還の期間を定めなかった場合、寄託者はいつでも返還を請求することができます。例えば、銀行の普通預金を解約したり、お金を引き出したりするケースがあてはまります。
・組合
組合契約は、「各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生じる」、「出資は、労務をその目的をすることができる」と、民法第667条で定められており、典型契約に含まれています。
組合契約は民法上の組合であり、任意組合とも呼ばれており、例としてはマンションなどの管理組合や投資組合、映画の制作委員会などが挙げられます。
任意組合には法人格がないため、労働組合や生活協同組合、森林組合などとは区別され、課税対象にならないため、課税は各組合員に行われます。このように法人や組合、団体などの利益に対して課税をせず、その構成員の所得に課税をする制度をパススルー税制(pass through taxation)と呼びます。
組合契約の設立
・複数の当事者が存在
・当事者の組合員からの出資
・特定の共同事業を営むことを目的
・当事者が組合の成立を約束
組合の財産
「各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する(民法第668条)」。組合の財産は任意組合に帰属し、組合員全員の合意がない限り、組合財産を組合清算前に分割することはできません。
組合員の出資不履行に対する責任
組合員が金銭の出資を怠った場合はその利息を支払い、損害の賠償をしなければなりません(民法第669条)。
組合の業務執行
組合の業務執行は組合員の過半数で決められます。しかし、日常的な業務については各組合員が単独で行うことができます。 また、組合契約で業務執行者を定めた場合は、その過半数で決定します(民法第670条)が、各組合員は組合の業務を執行する権利を有しないときであっても、その業務および組合財産の状況を検査することができます(民法第773条)。
業務執行組合員の辞任、解任
組合契約で組合員に業務の執行を委任したときは、その組合員は正当な理由がなければ辞任することができません。しかし、正当な理由がある場合に限り、他の組合員の一致によって解任することができます(民法第672条)。
組合員の損益分配
組合員当事者が損益分配の割合を定めなかったとき、その割合は各組合員の出資額に応じて定めます(民法第674条)。
組合債権者の権利行使
組合の債権者は、その債権の発生時に組合員の損失分担の割合を知らなかったとき、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができます(民法第675条)。
組合員の脱退、除名
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、もしくはある組合員の終身の間、組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員はいつでも脱退することができます。しかし、やむを得ない理由がある場合を除き、組合に不利な時期には脱退することができません。
しかし、組合の存続期間を定めた場合でも、やむを得ない理由があるときは脱退が可能です(民法第678条)。また、組合員の除名は、正当な理由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができます(民法第680条)。
組合の解散、清算
組合は、その目的である事業の成功、またはその成功の不能によって解散します(民法第682条)。組合が解散したとき、清算は総組合員が共同、もしくは組合員の過半数で選任された清算人が行います。
任意組合は組合員へ財務報告をする義務はありませんが、通例として財務報告は行われています。ここで、財務報告について見ていきましょう。
財務報告は経営状況などに関して定期的に企業が開示する情報で、各企業が貸借対象表(balance sheet:B/S)、損益計算書(income statement/profit and loss statement:P/L)、キャッシュフロー計算書(cash flow statement:C/S)、株主資本等変動計算書(statement of shareholders’ equity:S/S)の財務諸表(financial statements)を作成します。
財務諸表というと難しい響きですが、通常は決算書と呼ばれているものです。財務諸表の作成は決算日ごと、半年ごと、四半期ごとなど企業によってさまざまとなっていますが、会社法の第440条で株式会社は財務諸表の作成、公開が義務づけられていますので、会社のホームページでも情報を見ることができます。
また、2014年度からは社会福祉法人(social welfare corporation)も公開が義務づけられるようになりました。社会福祉法人がホームページを開設している場合はホームページ上で、ホームページを所有していない施設は所轄の都道府県や市町村に財務諸表のデータを提出し、それぞれのホームページで公開されます。
社会福祉法人の財務諸表が公開されるようになった理由としては、公的な補助金が交付されている、法人税や固定資産税などの税制優遇を受けている、サービスの利用者にとっての判断材料になる、という点が挙げられていて、当初は公開について社会福祉協議会からの反発もあったそうですが、経営状況を透明化するためには公開によるメリットのほうが大きいでしょう。
貸借対照表は、その企業がどのようにお金を集め、どのようにお金を使ってきたのかを表しており、財政状況を把握することができます。以下、貸借対照表に記載される主な項目ですが、資産、負債、資本の三つに分かれています。
貸借対照表
【資産の部(assets)】
・流動資産(current assets)
現金、預金(cash and time deposits)
受取手形(notes receivable)
売掛金(accounts receivable)
有価証券(marketable securities)
自己株式(treasury stocks)
製品(finished goods)
未収収益(accrued revenues)
短期貸付金(short-term loans)
仮払金(suspense payments)
貸倒引当金(allowance for doubtful accounts)
その他流動資産(other current assets)
・固定資産(fixed assets)
有形固定資産(tangible fixed assets)
土地(land)
建物(buildings)
構築物(structures)
機会及び装置(machinery and equipment)
車両運搬具(vehicles and delivery equipment)
工具器具備品(tools, furniture and fixtures)
減価償却累計額(accumulated depreciation expenses)
建設仮勘定(construction in progress)
無形固定資産(intangible assets)
電話加入権(telephone subscription right)
営業権(goodwill)
特許権(patent)
商標権(trademark rights)
借地権(leasehold rights)
ソフトウェア(software)
投資(investments)
投資有価証券(investments in securities)
出資金(investments in capital)
長期貸付金(long-term loans receivable)
敷金(security deposits)
会員権(membership rights)
・繰延資産(deferred assets)
開業費(inaugural expense)
開発費(development expense)
新株発行費(stock issuance expense)
【負債の部(liabilities)】
・流動負債(current liabilities)
支払手形(notes payable)
買掛金(accounts payable)
未払金(accounts payable-other)
未払費用(accrued expenses)
前受金(advance received)
短期借入金(short-term loans payable)
前受収益(deferred revenue)
仮受金(suspense receipts)
未払法人税(income taxes payable)
未払消費税(consumption taxes payable)
預り金(money entrusted)
・固定負債(fixed liabilities)
長期借入金(long-term loans payable)
社債(bonds)
長期前払費用(long-term accounts payable)
退職給付引当金(reserve for retirement allowances)
【資本の部(shareholders’ equity)】
・資本金(capital stock)
資本剰余金(capital reserve)
利益剰余金(legal reserve of retained earnings)
任意積立金(voluntary reserves)
前期繰越利益(retained earnings at the beginning of period)
当期未処分利益(unappropriated retained earnings at the end of period)
貸借対照表だけではなく、次回のコラムで紹介するその他の財務諸表(損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書)はそれぞれかかわりを持っているので、併せて確認をすると、その企業の経営状況をより深く把握することができます。
|