翻訳家によるコラム「契約書・政治経済・アート・スポーツコラム」

高橋翻訳事務所

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2013/03/18
商標権問題と中国

契約書翻訳、経済翻訳、政治翻訳、スポーツ翻訳担当の佐々木です。

今回のテーマは中国での商標権(trademark right)問題についてです。

iPadと言えば、アメリカのアップル社から販売されているタブレット型端末を思い浮かべる方がほとんどかと思います。しかし、iPadという名称を巡り、中国では大きな訴訟が行われていました。話の発端は、中国の液晶メーカーである唯冠グループの唯冠台湾社が2000年の時点でiPadの商標権を各国で得ていたことです。アップル社は2009年に商標権の撤回を求めてイギリスで同社を提訴しましたが認められず、唯冠台湾側に約400万円を支払うことで決着しました。しかし、その後に唯冠グループの別企業である唯冠科技社が2001年に中国国内におけるiPadの商標権を取得していたことを主張し、アップル社を相手に約1,200億円の賠償を求める訴訟を起こします。アップル社はすべての商標権を買い取り済みと反論しますが認められず、裁判は泥沼化の様相を呈していましたが、最終的にアップル社が約50億円の和解金を支払うということで合意に至りました。

中国での商標権をめぐっては、日本のブランドやキャラクターなどもトラブルが相次いでいます。例えば、人気アニメの「クレヨンしんちゃん」も1997年に中国の企業が不正に商標登録していたことが判明しましたが、著作権の侵害が認められるまでに約8年を要しました。

なぜ、国をまたいでの商標権問題が発生するのでしょうか。実は商標権は世界共通ではなく、それぞれの国で根拠が分かれているという現実があります。商標を使用しているという事実を重んじる「使用主義」と、一定の要件を満たせば登録が可能な「登録主義」が存在しています。アメリカは登録主義を、中国は厳格な登録主義を採用しているため、iPadのようなケースが出てくるのも不思議ではありません。真実かは分かりませんが、中国ではすでにaPadからzPadまで商標登録されているそうです。

このような状況が続く中、アメリカやヨーロッパ、日本を含む主要国では商標の共通化を進める動きも出始めています。しかし、各国の思惑や法体系の違いなどが複雑にからんでいるため、時間がかかるのは間違いありません。当面の間は自己防衛をすることが一番の方法だと思いますが、このまま放置しておくことは許されません。各国の知的財産権(intellectual property right)が正しく保護されるよう、早急に制度を整える必要があるでしょう。


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